覚えていますか
「……ぃ」
遠くで、声が聞こえる。
「……ーい……」
身体が揺れる感覚。
否、揺さぶられているのだろう。
この声は……フランシスさん……?
ゆっくりと瞼を開くと、視界に映るフランシスの顔。
そういえば、先程、彼が来ると分かっていたのに眠ってしまったんだった……
と思い出し、ゆっくりと身体を起こす。
そんな僕をフランシスさんは少し心配そうに見ていて。
「すみません……眠ってしまっていて。」
きっと呆れたろうな……
せっかくフランシスさんと話す機会がもてたのに
眠ってしまうなんて……
自嘲気味に謝罪の言葉を紡ぐ。
返ってくる無言に視線を上げると、フランシスは何ともいえないような表情でこちらを見ているだけで
その態度のぎこちなさに違和感を覚える。
「フランシスさん……?」
言葉にだした声は若干高くて艶っぽく、まるで僕じゃないような声。
そういえば髪の毛も伸びているような……
胸にあるさっきまでは無かった重みと今までと違う感覚。
多分、身長が縮んでいるのだろう。フランシスさんの背丈がいつもより高く見える。
どうすれば良いのだろうか……と視線を彷徨わせていると
「あの……さ……」
フランシスさんが困ったような表情で問い掛けて来た。
「はい……」
「マシュー、何処行ったか、知らないか?」
「え……!」
どうしよう、フランシスさん、僕だっていうことに気付いてない……
「それとも……もしかして、お前……」
あ、気付いてくれた……!?
気付いてくれたことに内心安堵の息を漏らすけれども
そう喜んでも居られない。
もしここで肯定したとして、どうなる……?
この状況をどう説明すれば良いのかなんて自分でもわからないし
彼に迷惑をかけてしまう結果になるだろう。
でも、否定した所で彼は僕に興味を示してくれるだろうか……
ぐるぐるぐるぐると悩んでいると、フランシスさんの方が話を切った。
「あ〜……なんというか、ごめんな。いきなり。」
ぽす、という音がしそうなくらい軽く、頭の上に手が載った。
「マシューの場所なんて、いきなり尋ねても分かるわけないよな、ごめん。」
「あ……えっと……す、すみません。」
「謝らなくていいよ。んで、君はマシューの彼女?」
「え……ええ……!?」
「やるねえ、マシューも。まだまだ子供だと思ってたけど、お兄さんに内緒でこーんな可愛い彼女作ってるなんてさ。」
ニヤニヤと、まるでアーサーさんと居る時のような笑いを口元に貼り付けながら僕の肩に腕を回すフランシスさん。
うああ……どうしよう、首元に直にフランシスさんの吐息が当たって、身体が硬直する。
とりあえず、心音の大きさに自分が一番動揺してて
心臓が止まってしまえばいいだなんて、そんなことを思った。