覚えていますか
-Side Frances-
さて……どうしたものか。
彼女に差し出された紅茶を啜りながら口の中で小さく呟く。
どういう経緯があって、マシューがこんなことになったのかは分からないけれど
彼がそれを話そうとしないかぎりは俺としては何もできないのがもどかしい。
最初、彼…否、彼女を見たときは、心底ビックリした。
マシューの持つ独特のやわらかい雰囲気は、
たしかに男性というよりもどちらかというと女性の性の方が似合うとは薄々感じていたけれども
まさかここまで完璧に女性として溶け込むとは思わなかった。
双子のアルと引き合わせ、アイツに養育を任せたから、少なからず男と遊ぶことはあったろうに。
彼の性格は元来のものなのか、おっとりとした様子は変わることなく
ほわほわしていて危なっかしく、我慢がきくように見えて、実は甘えん坊な彼は
スレることもなく、純粋なまま、この年まで育ってしまったのではないかと思うくらい
純情で、純粋な子になっていた。
ずずっと行儀悪く紅茶を音を立てて啜りながら、目線をあげて彼、否、彼女を見つめる。
少し蜂蜜色がかった金の巻き毛がくるくると小さな波を描きながら肩から腰のあたりまで垂れており
遠慮がちに伏せられた蒼い瞳は、紛れもなく彼の瞳の色だった。
前髪の分け目のあたりからくるんと伸びているあほ毛も存在し
全体的な雰囲気もマシューと何ら変わらない。
何故身体だけ女性になったのだろうか……とやや控えめに紅茶のカップを手に取るマシューの両腕の間から
零れんばかりに盛り上がっているその双丘に目線をやる。
……偽者ってわけでは……ないよなぁ……彼女が呼吸をするたびに上下に揺れるその双丘が妙にリアルで
仮に詰め物だとしても、あそこまで生々しくはならないだろう、と
長年の経験から結論を出す。
彼女は多分マシューなんだろうけれども
本人だって、多分何でこんなことになっているのかなんて、わかるわけないよなぁ……
はぁ、と心の中で嘆息すると、白い湯気をたてている紅茶をもういちど行儀悪く音を立てて啜った。