覚えていますか
-Side Matthew-
とりあえず、”マシュー”が帰ってくるまでの間待つということになり
フランシスさんと僕とで机を挟んで向かい合わせに座る。
お客様にお茶の一つも差し出さないのはおかしいな、と思い、フランシスさんが来たら淹れようと思っていた
とっておきの紅茶を二人分淹れて、お互い向かい合う。
フランシスさんはいつものような、否、僕の前では決して見せないけれども
他の人の前では見せるような張り付いた笑みを浮かべながら
じっと僕を見つめてくる。
やはり僕のことを怪しんでいるのだろう。
表面上はビジネス用の笑顔でゆったりと構えているのだけれども
遠慮の無い視線がちょっと痛くて、僕はその視線から隠れるように紅茶を飲む。
フランシスさんが来るというから張り切って買いにでかけた茶葉は、甘い香りのするアールグレイ。
シンプルだけれども、上質なものを選んだはずだ。
試飲してみて気に入ったから買ったのだけれども、今は、視線が気になって味もろくに味わえない。
こんなことになるはずじゃなかったのにな……
気づいたら女になっていて、フランシスさんに誤解されて。
僕が僕だと言い出せずにいるこの状態は、本当に情けない。
けれども、彼と一緒にお茶を飲んでいるというだけで幸せだと感じる心もあり
それが自分だと思うと、なんてのんきなんだ、と嘆息する。
「マシュー」
思考がまとまらなくて頭の中が混乱してきたあたりで、不意に自分の名前を呼ばれ、
「ふぁ、ふぁい!?」
気が動転して紅茶を注ぎなおしたばかりのカップを盛大に取りこぼしてしまう。
手から滑り落ちたカップはあろうことかマシューの豊満な双丘にその中身をぶちまけ
鈍い音をたてて机の上に転がった。