One Year Later 1
3人が3人とも大佐の企みが簡単に想像できた。きっとリンが逮捕されたのは、頼みごと=脅しをする前提だ。何が何でもこの調査に巻き込もうと牢屋にまでブチ込んだに違いない。確かにリンは気が読めるが・・・そこまで、っていうか隣国の皇帝まで使わなくてもという気がしないでもない。・・・結局、ここにいる全員、大佐に命令っていうか脅されて集まったようなもんか。
「あー、まぁ、災難だったな。せっかくの嫁さん探しが、トンネル探検になるなんて」
「本気で思ってるのか、エド。えらく棒読みだナ。」
「思ってる思ってる、俺たちも大佐に半分脅されてここに来たようなもんだし」
「そうなのカ。じゃぁ目的は一つダ。」
「あぁ、とっととこんな仕事終わらせて、ちゃっちゃと報告して、一刻も早くあのアホ大佐とは縁を切るっ!!」
「異議ナシ」
エドとリンは拳を合わせた。
しばらく山道を進むと、斜面にぽっこり穴が空いている所でハボック少尉の車は止まった。
「この穴、例のトンネルにつながってて、しばらくすると突然、先がなくなるんだ。調査しやすいようにこの横穴を掘ったんだぜ、一人で。」
ハボック少尉の説明を聞きながら、車を降りてランプを手に横穴を進む。すぐにあの例のトンネルに出た。ホムンクルス1人が手で掘ったとは思えないくらいバカでかいトンネルに。これが国境を一周、すごい手間と時間がかかる作業だ。本当にあの三流親玉目ん玉は気だけは長かったんだなと思う。
4人でランプの明かりを頼りに黙々と進むと、5分も歩かないうちに、そのトンネルは行き止まりになった。土砂が目の前を覆う。
「な、まだ未完成のトンネルって感じだろ?」
ハボック少尉が腰に手を当ててランプを高く持ち上げる。確かに、光に照らし出された先には、普通に土砂があった。まるで今からトンネルを掘る現場みたいな。
「本当だな。こんな形でこの穴が塞がっているなんて思わなかった。てっきり壁とかで塞がっているんだと・・・」
「そうだよね、穴を塞ぐイメージっていったら壁とかが錬成しやすいもん。」
「だよなぁ」
目の前を塞ぐ土砂に手を当ててみる。・・・普通の土砂の感覚だ。一部手で取ってランプの光でよく見ても、独特の角ばった形、つまり錬成した跡は見えない。
「・・・リン?なんか気づいたことあるか?」
さっきから妙に静かなリンに声をかけてみると、リンは首を傾げていた。
「おい、まさか妙な気があるとか・・・まだ賢者の石の気配がするとか、ホムンクルスがいるだとか言うなよ」
こんな行き止まりのトンネルの中で是非とも出会いたくない。
「あぁ、イヤ、チガウチガウ・・・そうじゃなくて・・・この感覚・・・う~ん?・・・なんかシンみたいだ。」
「「「はぁ?」」」
「シンの中でも霊験あらたかな・・・そうだな、龍脈の吹き出すトコロ・・・そことすごく似ている気を感じル」
「龍脈?って確か錬丹術の基礎となるエネルギーだよね。メイが言ってた。」
「そう、ソレ。・・・イヤな感じは全くしない。むしろこの前まで蠢いていたモノの感じが消えて、龍脈っぽい感じがする。多分、錬丹術師ならもっとわかると思うケド・・・ウン、これは確かに龍気ダ。」
「じゃぁ、これは錬金術じゃなくて錬丹術で錬成されたものなのか?」
「そんなのわかるわけないだろ?俺は気が読めるだけ。錬丹術は門外漢ダ」
「イバるな!全く使えねぇな。これならまだメイの方が詳しいことがわかるんじゃねぇか。」
「そうだね、結構龍脈をすぐに感じることができてたし。説明は・・・全くわからなかったけど。」
「皇帝よりメイの方が役に立つみたいに言うナ!俺が無能みたいじゃないカ。」
「みたいじゃなくてそうなの!この調査に関しちゃ、メイの方が有能だ。」
「あのなぁ、こんなとこまで付き合っている俺に向かって、ヒドくないか。さすが大佐の知り合い・・・」
「アイツと俺たちを一緒にすんなっ!!事実を言ったまでだ。」
「それが皇帝に向かって言う言葉カ。」
「皇帝っていうなら、メイとか錬丹術師をすぐにここに連れてこいよ。全く一人でフラフラするからこんなとこで無能呼ばわりされるハメになるんだろうが。」
「・・・そこまで言うカ。・・・久々に運動するカ。体がナマってるみたいだし。そう言えば錬金術は使えなくなったそうだナ。手加減しようカ?」
「だ~れが、貴様なんかに手加減されてたまるか。全力で来いよ。」
「二人とも、落ち着いて。」
「お~、やれやれ~」
「ハボックさん!!っもう、さっさと調査してちゃっちゃと帰るんじゃなかったのっ!!二人とも、喧嘩してこのトンネル壊したら調査できなくなるんだからねっ」
「「・・・・・・」」
今にも組手を交わそうとしていたエドとリンがピタっと止まる。確かに、自分たちがここで喧嘩したら、トンネルは崩れる可能性が高い。そうなると、目の前の行き止まりとなった箇所も崩落して調査はできなくなる。
「しょうがねぇな。今回は見逃してやるよ。」
「こっちのセリフダ」
「何しに来たのか、ちゃんと思い出してよ、二人とも。・・・リンさん。錬丹術では龍脈を利用するって聞きましたけど、龍脈を発生させるとかも出来るんですか?」
「・・・イヤ、俺は聞いたことがナイ。錬丹術は龍脈を利用するダケで、龍脈自体を生み出すなんてことは、出来なかったハズだ。少なくとも俺は知らナイ。」
「ですよねぇ。錬金術も地殻エネルギーを利用するけど、そのエネルギーそのものを生み出したりすることは出来ないですもん。」
「何が言いたいんだ、アル?」
「以前、ここには龍脈はなかった、もしくはトンネルを通っていた賢者の石のせいで龍脈は感じられなくなっていた。でしょ?」
「あぁ、悪い気が蠢いている感じしかしなかった。龍脈なんてわずかしか感じられなかっタ。」
「だけど、今は感じる。ってことは凄いことが起こってるんじゃないかなって思って。」
「「・・・確かに。」」
アルの意見にリンと俺は頷く。ハボック少尉はなんのことかわからないらしい。俺はアルの言ったことを考える。地殻エネルギーを生み出す錬金術なんてない。ってことは錬丹術でも龍気を生み出すのは難しいハズだ。いや、でも元からあったものが、賢者の石で遮断されていたとしたら・・・
「リン、セントラルはどうだったんだ?あの錬成陣が破壊されて、ちょっとは何か変わってたか?」
「気持ち悪い違和感は消えてたケド、シンと同じだと思えるほどの龍気はなかっタ」
「そうか・・・っとすると、やっぱここは異常なんだな。トンネルが壊れただけで、龍脈が活性化するってわけでもねぇもんな。」
目の前の、普通のトンネル現場で未完成みたいな土砂を凝視する。ここから龍脈が・・・リンの言うところの龍気があるのなら・・・普通じゃない。この土砂は不自然だ。しかも絶対に前はトンネルが貫通していたハズだ。・・・あの約束の日、確かに国土錬成陣は発動し、アメストリス人の魂を、命をあの親玉に吸い取られたのだから。
しかも・・・周りを見渡す。特に地面がえぐれているわけでも、穴が不自然に大きくなったわけでもない。ランプであたりを照らす光が、アルとかぶった。アルも同じことを感じたんだ。
「兄さん、これ・・・全く穴の大きさ、変わってないよね。」
作品名:One Year Later 1 作家名:海人