One Year Later 1
「「・・・・・・」」
さすがにナギの気がついた。しかし明らかにナギの見た目はリンより上だが・・・リンの弟だったのか。そういえば黒髪だし、リンも知っている様子だし。
固まっていると、リンが怒り出した。
「何を言っているんだっ!!ナユ家のっ!!」
「・・・?なんでリンさん、怒ってるの?兄さん」
「「・・・・・・・」」
あー、ナギが兄さんって呼んでるのは俺のほうなのかって、おいっ!!
「なぁっ!?俺を兄さんって呼ぶのはアルだけだぞ、アル以外、弟はいないっ!!」
「うん、僕も兄さん以外に兄さんはいないって・・・あれ?なんか視界が暗い・・・髪が黒いし・・・・えぇっ!?」
立ち上がった途端、ナギはヨロけた。そして呆然と食堂の窓に映る自分の姿に駆け寄る。
「おい・・・!?」
さっき、俺のことを坊や扱いしたヤツとは同じと思えない。
しかも俺のことを兄さんって・・・
「・・・・・・どうしよう。なんで、僕、違う人になってるんだろう。」
「あぁ!?」
「僕、アルフォンスだよ。」
「「なぁっ!!??」」
「なにバカ言ってんだ、アルならあっちに倒れてて・・・」
さっきまでアルが倒れた場所を見ると・・・そこには誰もいなかった。
「あれ・・・アル?」
「だから、僕がアルフォンスだってっ!」
「いや、有り得ないだろう、さっきナギだって自分で言ってたじゃないか」
「ナギだって、違う、アンタはナユ家のナーグだろウ?」
「あー、もう、だから自分の体じゃなくなったんだってばっ!!この体のことは知らないけど、魂はアルフォンスなのっ!!」
半分、涙目のナギが必死に言う。確かに・・・口調はアルみたいだ。さっきのナギとは全然違う・・・けどそんな、まさか。
「・・・ウソだろう・・・」
「僕もそう思いたいよ・・・どうなってんの?・・・・」
・・・・その問いに答えられる者は誰もいなかった。
とりあえず道端で話し込むわけにもいかないので、さっき出たばかりの食堂に戻る。
カウンターではなく、ちょっと奥まったところにあるテーブルに3人で着いた。
「あれ、ナギ。出かけるんじゃなかったのかい?さっき何があったんだい?」
不思議そうに声をかけてくる女将さんに俺は慌てて答えた。
「あー、さっきのでナギ、頭打っちまったから、ちょっと休憩、なっ!!」
ナギの姿のアルを肘でつつく。
「う、うんっ・・・」
「大丈夫かい?気をつけるんだよ」
「とりあえず、女将さん、俺と連れ、食事したいから、料理適当に持ってきて。」
「あいよ。」
なんとか女将さんをナギから離す。・・・話し込んだら気づかれてしまう。ナギが、その・・・別人だって。未だにちょっと信じられないが・・・
「兄さん、まだ、疑ってるんでしょう。」
「・・・そりゃ、素直に信じられるわけないだろう。」
「じゃ、質問してよ。」
「質問?」
「そう、僕じゃないと答えられない質問。全部、答えるからっ!!」
「そこまで言うんなら・・・俺の幼馴染の機械鎧技師は?」
「ウィンリィ」
「そこん家で飼ってる犬の名は?」
「デン。ってそんな簡単なものじゃなくって、もっと、僕だけが知ってるような質問だよ。」
「っていきなり言われてもなぁ・・・俺とリンを飲み込んだホムンクルスの名前は?」
「グラトニー。」
「そん時、一緒に飲み込まれたホムンクルスは?」
「エンヴィー、変装が得意なホムンクルスだったよね。」
「じゃ、ホムンクルスは全部で何人だ?」
「7人。親玉まで入れると8人。」
「・・・ホーエンハイムの正体は?」
「父さんは父さんだよ。」
・・・アルなら、確かにそう答えそうだ。決して生きた人間の形をした賢者の石で不老不死な錬金術師なんて言わないだろう。
「じゃぁ、最後の質問。俺がここに来る前、ウィンリィにスパナを投げつけられた理由は?」
「僕に牛乳飲むなって言ったから。」
「正解。・・・ってことは、ホントにアルなのか。」
「・・・エド、お前・・・」
「そこで呆れるなよ、こんな質問、俺だってしたかねぇけど、これでハッキリした。この目の前の体の魂はアルフォンスだ。間違いない。」
こんなくだらないことを知っているのは俺とアル、あとウィンリィだけだ。
「やっと信じてくれたんだ、よかった。・・・でも、どうしてこんなことになったんだろう・・・?」
「それだ、さっきお前、っていうかお前の体か・・・倒れてたんだけど・・・起きたとき、そういや様子が変だった。」
「変って?」
「俺に向かって、アルアルうるさいとか・・・あ、リンの声が聞こえたとき、糸目とか言ってた。」
ダンっ
突然、リンが握り拳でテーブルを打ち付けた。
「脅かすなよ、リン。急になんで・・・俺が言ったんじゃないからなっ!」
「わかっていル、やっぱり、お前はナユ家のナーグだっ!!」
「・・・だから、僕はアルフォンスだってさっきから・・」
「あぁ、違う。お前の体はナーグ・ナユだって言っているんダ。ややこしいナ。」
「そういや、知ってるのか?リン、この体の人のこと。さっき聞き込みしたときは、ナギだって名乗ってたんだが、ナユ家のってなんだ?」
「ナーグ・ナユ。シンの元第2皇子だ。」
「「第2皇子!?」」
「そう、第2皇子といっても、第1皇子は一番最初に生まれたことしか自慢しない愚か者だったから、実質、次の皇帝に一番近い皇子だった。」
「だったって・・・過去形なのか?っていうかお前が皇帝になったじゃん。」
「5年前、行方不明になったんだ。クセルクセス遺跡を見に行って、そのまま・・・」
「「行方不明っ!?」」
「そう、俺がクセルクセス遺跡を見に行ったもの、ちょっとはナーグ・ナユの手がかりがないかと思ったからなんだ。ナユ家は・・・ナユ一族はナーグが行方不明になって戻らなかったから滅ぼされた。」
「「なんで!?」」
「大事な後継者を守りきれなかった罪で。・・・そういえばこの頃から皇帝は不老不死に執着しだした・・・一族の者も皇帝を恐れ始めた・・・きっと狂い始めた時期だったんだナ」
「・・・なんでそんなヤツが、シンに戻らずにアメストリスにいるんだよ。」
「それは俺も聞きたイ」
「だから、僕はアルフォンスなんだってばっ」
「「あぁ、そっか・・・」」
本当にややこしいな、体と魂が違うって。
大体、なんだってこんなことになったんだ。
「アル・・・さっき、お前何をしたんだ?」
「さっき・・・あぁ、このお店の前で馬が暴走してたんだ。それでもう少しで子猫を轢きそうになってたから思わず壁を錬成して・・・そしたらちょうどこのお店から人が出てきて、錬成した壁とぶつかりそうになって・・・気がついたらリンさんに怒られてた。」
「・・・それだけか?」
「それだけ。」
「なんか、もうちょっとこう、魂が入れ替わるようなこととか、ないのか?」
「ないよ、大体、魂が入れ替わるようなことってどんなことなの?」
「う~ん、人体錬成とか」
「しないよっ!!」
「だよなぁ。」
「はい、お待ちどうさまっ。たっくさんお食べ。」
ちょうど話がひと段落したところで、女将さんが料理を運んで来てくれた。適当にと言ったのだが、エライ量だ。これ、食べきれ・・・あ、リンがいたか。
俺の心配をよそに、予想通りリンが次々と料理を口に入れる。
作品名:One Year Later 1 作家名:海人