One Year Later 2
「・・・国土錬成陣を壊した人を知っているかって聞かれたら、ちゃんと答えたよ。」
「聞いたじゃねぇか!?」
「聞いていない。キミが言ったのは、怪しい人物を見なかったか、錬金術師なんだけれどもってことだけだよ。」
「それでわかるだろうがっ!!」
「わからないよ。大体、私は怪しい人物でもなければ怪しい錬金術師でもないし、怪しいコトをしている覚えもない。」
「国土錬成陣を壊しているじゃねぇかっ!!」
「それのどこが怪しいコトなんだ。キミの父親、ホーエンハイムから頼まれたことなんだ。怪しいコトだと考えること自体、私には理解出来ない。」
「・・・ホーエンハイムに頼まれた?」
「そう、詳しいことはアルから聞いてくれ。昨日、事情は話した。」
「アルに?」
「そうだよ、に・・・」
ギンって大佐姿のアルを睨むと、口を両手でパっと押さえた。・・・確かに目で「兄さん」言うなって脅したのは俺だが。
口を両手で覆うなよ。仕草がいちいち普段の大佐と違いすぎて、鳥肌も悪寒も止むことがない。
「え~っと、エ、エド・・・ワード・・さん?」
「さん付けいらない。エドでいい。なるべくなら『鋼の』が・・・。」
「兄さんを『鋼の』なんて、呼べないよっ!」
「・・・・何度も言うが、その顔と声で「兄さん」呼ぶな・・・力が抜けて、現実拒否したくなるから・・・エドでいい。・・・それからナギ、アルから事情を聞くことは今ちょっとムリだから、もう一度俺に説明してくれ。」
「私は疲れているんだが。」
「俺も負けないくらい疲れているっ!!大体、なんでアルだけに説明したんだっ!俺もホーエンハイムの息子だろうっ。」
「静かに話を聞いてくれて、これまでのことを簡潔に説明してくれそうな人を選んだだけだよ。」
「俺じゃムリだってのか!?」
「ムリだろう。少なくとも静かに話は出来ない。最初に会ったとき、いきなり怒鳴ってたよな、チビじゃないって。」
「・・・・・・」
事実なだけに反論できない。呆れたような視線が大佐姿のアルからもリンからもアルの姿の大佐からも向けられている気がする。
「・・・そ、それでもアルだけ連れ出すなんてしないで、あの場にいて事情を説明してくれれば・・・こんな事態にはならなかったじゃないか。」
こんな事態というところで大佐とアルを交互に指差す。
「ホントだな。なんでこんなことが起こっているんだか。・・・あの術の発動のとき、錬成反応をぶつけたのは大佐だが、それだけで魂が入れ替わるなんて・・・不自然だな。話を聞いた限りでは、傍にいたエドワードと入れ替わるのが普通なんだが・・・」
「俺と?」
「そう、兄弟で元々魂の結びつきは強いし、真理の扉も向き合うほど情報が一時混線してたみたいだし・・・どう考えても魂が入れ替わるんなら、エドワードとアルだろう。」
「・・・確かに。」
俺の方が、大佐より確実にアルの魂に近い。
「じゃぁ、は・・・エドではなく、なぜ、私の魂とアルフォンス・エルリックの魂が入れ替わったんだ?」
「う~ん、大佐は魂が離れやすい体質だったり、経験があったり」
「そんな経験、あるわけないだろう。」
「では、二人に共通する、なんかこう、特殊なことは?」
「・・・人柱になったことくらいか。」
「人柱か・・・いや、それだとエドワードもだろう?」
「あぁ、俺も人柱になっている。」
「う~ん・・・他に、不自然な力が関わっているようなことはなかったか?」
「不自然な力?・・・あぁ、そういえば賢者の石を使って、目を治したが。そのとき不自然な力は使っているな。」
賢者の石・・・途端に眉を寄せる俺に、大佐(アルの姿)は、肩をすかせる。
「ドクターマルコーに頼んで、この・・・じゃない私の体の両目の視界を取り戻してもらった。そのときに賢者の石を使っている。私が自分の意思でお願いしたことだ。」
「マルコーさんっ!?って、あの、その時の賢者の石は、もしかしてこのくらいの大きさで先が尖っている形してませんでしたか?」
「形としてはそのような形だったが・・・?アルフォンス、何か知っているのか?」
「はい、それ、僕も使ったことがあります。」
「アル!?」
「に・・・じゃない、エド、僕も使いました。キンブリーとセリムと戦ったときに、ハインケルさんが持ってたんです。ハインケルさん、ケガをしていて・・・その時に使いました。使わなかったらあそこで負けていたから。確か、賢者の石はマルコーさんがその後持っていたハズです。」
「なるほど・・・同じ賢者の石を使った者同士か・・・確かに不自然な共通点だ。錬成反応を壊した張本人だし、これでアルと大佐の魂が入れ替わった説明はつくな。」
ナギが一人、納得してスッキリした顔をしている。
・・・イヤ、問題なのはそこじゃないだろう。
「そうじゃないっ!!話を誤魔化すなっ!!俺が聞きたいのは、なんでアルと魂が入れ替わったときに姿を消したっ?それでどうして俺とリンを眠らせて、アルだけ連れていったんだ?そんなことしなけりゃ、俺たちだって後を必死に追いかけなかったし、錬成陣に突っ込むこともなかったんだっ!!」
「バレたか。」
「お・ま・え・な・あ!?」
ちっとも悪びれないナギの襟首に掴みかかる。まったく、最初に会ったときも思ったが、人を子供扱いしてバカにしていないか、コイツ!?
「それは俺も聞きたい。いや、そもそもなんでアメストリスにいるんダ?」
「あー、話せば長くなるんだが・・・」
「「是非聞かせてもらおうか」」
俺とリンの声がハモる。そのとき、車のエンジン音が聞こえてきた。
「とりあえず、休ませてくれないか。昨夜は徹夜だったし、複雑な錬成をして、ホントに疲れているんだが・・・丁度待ち人も来たみたいだし。」
「よう、大将。大佐とアルが入れ替わってるんだって?」
俺たちの前で止まった車から、咥えタバコで呑気に声をかけてきたのはハボック少尉だった。
「いや~、中尉から聞いたときは、中尉でも冗談言うんだなってビックリしたけど、本当だとはビックリした。うわ~、すげぇな。アルが大佐で、大佐がアルなんて、まぁ・・・アル、大きくなったな。」
「はい。」
「「「そういう問題か!?」」」
俺、リン、大佐(アルの姿)がハモる。この異常事態を面白がるような少尉にむしろ感心する。俺なんか・・・現実を直視できない。いろいろ精神的にムリ過ぎて。
「で、これ戻るの?」
なんで大佐といい、少尉といい、俺に迷わず聞くんだ。
「俺に聞くな。」
「じゃ、誰に聞くの。」
全員でナギを指差す。
「あ~、戻るとは思うけど、この状態が不自然なんだし・・・案外、一緒に寝て起きたら戻ってるかも。」
「本当か!?本当にそんなんで戻るのか!?」
思わず詰め寄る俺に、う~んと首を傾げるナギ。
「・・・錬成反応があれだけ拒絶してたから、やっぱムリかも。」
「お・ま・え・な・あ!?」
「いや~、あの時の拒絶反応が凄かったこと、今思い出した。」
はぁーーーっ。深く深くため息をつく。寝て戻るんなら、今すぐ二人とも問答無用で気絶させようと思ったのに。
「じゃ、どうすれば戻るわけ?」
呑気に軽く聞く少尉に、ナギも同じく呑気に答える。
「ムリかも。」
作品名:One Year Later 2 作家名:海人