One Year Later 2
「ムリ言うなっ!!なんとしてでも元に戻せっ!!俺は大佐が弟なんて死んでもゴメンだっ!!」
「私だって、鋼のの弟なんて冗談じゃないっ!!それにやらなければならない仕事がまだたくさん溜まっているんだっ」
「だって、あの時、錬成陣に手を出したのは大佐だろう。自業自得だ。諦めて・・・」
「「諦められるかっ!!」」
俺と大佐(アルの姿)の声がハモる。お互い一大事だ。大佐とだって協力して、なんとしてでも元に戻ってもらわないと。
「大体、お前は元に戻っているんだから、同じことをすれば、戻るハズだろうがっ!!」
「あ~、うん、でも龍気が足りない。さっきので使ったし。」
「・・・では、龍気がある土地で、もう一度、錬金術をすればいいのではないか?」
大佐(アルの姿)が冷静に言う。・・・そうなんだけど、やっぱ、冷静なアルって・・・思わずナギに詰め寄る力が抜ける。
「じゃぁ、あと2ケ所あるじゃないっすか。」
「ハボック?」
「トンネルが壊れてたとこ。ここと同じことしてんなら、同じように龍気っての?があるんじゃないっすか?」
おぉっ、少尉、トンネルの中じゃ全く話についていけてなかったのに、いいこと言うじゃん。
全員、ナギに視線を集める。あのトンネルを壊したのは、ナギだ。龍気が読めるのも。
「あー、そういえばそうだった。うん、そこに行って同じ錬金術をすれば戻るかもな。」
これでやるべきことが決まった。
俺たちは全員、トンネルが壊れた箇所―北を目指した。
本当に疲れてるからとナギは後部座席にとっとと座り、すぐに目をつむった。
「アル」
「なに?」
「お前も、後部座席に行け、大佐は助手席な。なるべく離れて座ってくれ。」
「どうして?」
「俺の精神的な問題。」
質問しながらも、俺の指定どおりに座り、車は移動を開始した。
「いい加減、慣れたらどうだ?ハボックなんか、固まることはないようだが?」
「少尉が異常なんだよ!?中尉とか俺が普通なの。わかってんのか、自分たちがどれだけ周りに迷惑かける状態か!?」
「・・・不思議な感じはするケド」
「何度も固まるほど、不自然ではないだろう。」
アル(大佐の姿)と大佐(アルの姿)にため息が出る。コイツら・・・周りに与える精神的ダメージをちっとも理解していやがらない。
「あのなぁ、・・・例えばグレイシアさんとアームストロング少将の中身が入れ替わってたらどう思う?」
途端、車が大きくブレる。
「少尉!!」
「あ~、悪い悪い。いや、大将が心臓に悪いこと言うもんだから・・・それはさすがの俺でも想像もできないわ。」
「・・・確かに。」
「うん、そうだね。」
どちらも女性で、年齢的にも同じくらいだと思うが、性格が凄ぶる違う。
グレイシアさんは、アップルパイ焼けたのよ、お茶を飲んでいかない?と春の陽だまりのような柔かい人だが、アームストロング少将といえば、セントラルの狗ども、お前らがぬくぬくと平和を甘受しているのは誰のおかげか考えるがいい、ここブルックスの掟は弱肉強食が口癖の、極寒の厳しすぎる女将軍・・・言い出した俺でもこの二人の魂が入れ替わった姿など、想像も出来ない。
「そんくらい、俺の目の前では心臓に悪いことが起こっているんだ。二人とも、もっとこう、体に合うよう似せてくれ。」
「一応、やろうと思ったんだけど、難しくて。」
「何を言っている、そんなに変わらんだろう。」
アル、大佐・・・そこが違うと言っているのに。
「だから、アルはもっと堂々と、人並み以上に威張れっ!大佐はもうちょっと人並みに謙虚な態度を取れよ。そうすれば、俺の世界は平和なんだっ。ちょっとでいいから、その努力をしろっ!!」
「酷い言われ様だな。」
「やー、俺は謙虚な大佐が見れて面白いですけどね。アルにあとで俺に頭を下げてくれるよう頼んでみよう。」
ゴンっ
すかさず助手席のアルがハボック少尉の頭を殴った。げんこつで。
「痛っ、暴力反対、何するんだ!?」
「お前がアホなことを言うからだ、そんなくだらないことを考えてるヒマがあるあるなら運転に集中しろ、もっと飛ばせっ!!」
「はー、アルでも怒ると迫力あるのな。」
「それ、アルじゃないからっ。っていうか、少尉・・・俺ちょっと少尉のこと見直したっていうか、見下げ果てたというか・・・凄い順応力だな。」
「大将、それ褒めてんの?けなしてんの?」
「呆れてるんだよ。」
よくまぁ、この二人に固まらずに対応できるもんだ。
アルの姿の大佐は不機嫌を顔に貼り付けている。そんな苦虫を噛み潰したような顔、アルはしないんだが・・・ま、少尉の反応に嫌気がさす気持ちもわかる。
ふと、大佐姿のアルが静かだなと思って、後部座席を振り返ったら・・・ナギと同様に目をつぶって眠っていた。
・・・振り返らなきゃ良かった。激しく後悔した。
昨夜、徹夜だとナギが言っていたから、きっとアルも徹夜したんだろうと思うけど・・・大佐の寝顔見て、あどけないなって思う日がくるとは思わなかったぁぁぁっ!!
さっき見た寝顔は完全消去!!記憶から抹消決定っ!!
目的地に着くまで、二度と振り返るまいと心に決めた。
――――――
夢を見ていた。夢だなって思うのは、辺りが濃い霧に包まれたように白っぽいから。
その霧の中にも黒々と見える骨組み・・・見たことがある。あれは、家を焼いた跡だ。
見渡す限り、そんな黒っぽい骨組みだらけで・・・人の気配がまるでない。
「爺ぃ・・・・・みんな・・・・すまない。」
この声、ナギさんだ。
小さな声だけど、確かに聞こえた。何かを堪えるような声で・・・胸が物凄く締め付けられるように痛かった。
あぁ、これはナギさんの夢か・・・
唐突にそう思った。
だって、自分では見たこともない風景だし、爺なんて、知らないし。
いや、夢じゃないのかも。魂が時々離れるって言っていた。
もしかしたら、これは魂が見ている風景かもしれない。
「ナユ一族は滅ぼされた」
リンが言っていた言葉が蘇る。・・・ここはきっとナユ一族の・・・
もっとよく見ようと目を凝らしたのだけれども、急速に風景は遠ざかっていった。
――――
「アルっ、おいアルっ、着いたぞ。ナギも、起きてくれ」
「・・・?ここ、ドコ?」
さっきまでの夢の風景と違いすぎて、ちょっと頭が着いていかない。
思わず両腕で目を擦って、視界をハッキリさせようとしたら・・・兄さんがちょっと固まった。
「・・・国土錬成陣が・・・トンネルが壊れた箇所だ。リンが龍気がみなぎっているって言ってる場所だ。」
あまりこっちを見ないように説明してくれた。
「ナギさん?起きてください、ナギさんっ!!」
「う・・・・あー、着いたのか?」
「トンネルが壊れた箇所です。合ってますか?」
ナギさんも僕も車から降りてゆっくりと周囲を見渡す。
そこは寂れた炭鉱だった。人の気配はない。
「あー、合ってる。ココで間違いない。龍気もある。」
「よし、じゃぁ早速やってくれ。」
兄さんが急き込んで頼む。
「・・・出来ないが?」
「はっ!?」
「夜明けじゃないと出来ないって・・・説明してなかったか?」
「してない、聞いてないっ!!」
「あれ、確かに言った記憶が・・・」
作品名:One Year Later 2 作家名:海人