One Year Later 2
「さてと、これで質問には全て答えたな。・・・じゃ、そろそろ錬成陣の準備をするか。」
いつの間にか東の空が明るくなってきた。夜明けだ。
ナギは無造作に頭上に8つの剣を投げる。見事に同心円状に広がったそれは、錬金術の円を描く。
「アル、私の隣に立て。錬成陣の中心にいろ。大佐は、私が合図したら錬成陣の中に入るように。夜明けと同時に行う。わかったな」
深く頷いた二人を確認すると、ナギは錬成陣の内側に複雑な図形を描き始めた。ちょうどアルの正面に立ち、複雑な組手を繰り返した後・・・地面に両手をつく。
夜明けだ。
「今だ!!」
錬成陣が柔らかな光を放つ。
アルの姿の大佐が、一瞬、躊躇したが、その光の中に足を踏み入れる。
前のときみたいに光の洪水は発生せず、そのまま朝霧のようゆるやかに光を放ち続け、中心に、アルのいる方へ集まり・・・パァっと弾けた。
「・・・どうだ、アル?」
気絶もせずに、錬成陣の中心に立っているアルに声をかける。
「兄さん・・・やっと戻ったぁ!!」
「アルーーーっ!!」
素直な喜びの声を上げる弟を見て、心から安堵する。こんなに嬉しかったのは、本当の体を取り戻したとき以来だ。
「あ~、戻っちまったんですね、そういえば、頭を下げてもらうの、忘れて・・・」
「少尉、軍曹に降格するぞっ!!」
「そりゃないっすよ、ここまで付き合ったんですから。」
大佐も無事、大佐らしく戻っている。良かった。一時はどうなることかと思ったけれども。
「喜んでいるところすまないが、アル、大佐」
「なに?」
「なんだ?」
「注意事項だ。今回のことで二人の魂の間には道が出来ているみたいなものだ。複雑な錬金術や大規模なものをするときには、お互い傍にいないよう。また入れ替わる可能性が高いからな。」
「・・・わかりました。」
「・・・了解した。」
「よし、大佐。もう俺たちに連絡するな。その方がお互いのタメだ。」
やったっ!これで大佐と縁が切れる。
「鋼の・・・キミは、関係ないじゃないか。これから調査はキミだけに頼めばいいだけの話だ。」
「調査って・・・今回の国土錬成陣の犯人はコイツだろう。」
「・・・犯人扱いはやめてくれないか。ホーエンハイムから頼まれたって言っているだろう。結構、複雑な錬成陣できちんと破壊しているっていうのに。」
「そうだっ!破壊の仕方っ!!・・・なんでこんな形なんだ?壁を錬成した方が早いだろう。それに塞いでいた土砂・・・どこから出てくるんだ?質量保存の法則を無視している。」
「完膚なきまでに元通りにするのがホーエンハイムの望んだことだ。壁を錬成したら、その錬成した壁を使い、また円ができる。だから、このトンネルを掘る前の状態に戻すのがベストだ。わかるか?」
「わかるけど・・・そんなこと出来るのか?」
「出来る。というか、ホーエンハイムから教わった。記憶を錬成するんだ。」
「記憶!?」
「そう、この大地の記憶。トンネルを掘る前、いやもっと以前・・・この地にアメストリスが建国される前の大地の記憶をもとに土砂を錬成した。結果、龍脈も復活した。」
「そんなこと・・・出来るのか?」
記憶を錬成するなんて・・・それが可能なら・・・人体錬成もできるんじゃないのか。人の記憶を錬成すれば・・・
「あいにくと有機物の錬成は無理だが、無機物で大気にある元素が元になるものであれば、可能だ。」
「そうか・・・有機物はムリか・・・」
「当たり前だろう。命はそんなに簡単に錬成出来ない。
・・・錬金術で出来ることなんて限られているよ。」
ポンポンと俺の頭をナギが叩く。・・・絶対、コイツ俺のことを子供扱いしているよな。
その手を振り払おうとしたら、突然、邪魔が入った。
「ナーグ」
「ナギだ。糸目。」
「糸目言うな、リン・ヤオだ。」
「・・・知っているが、何か用か?」
「・・・シンに帰って来ないカ?」
「はっ!?・・・何を言っている?大体、もう私に帰る場所などない。」
「シンに来て、俺の政治を助けて欲しい。・・・宰相となって欲しいんダ。」
「正気か?糸目。私に私の一族を滅ぼした国の宰相になれって?」
「そうダ。」
呆れたようにナギが言うが、リンは一歩も引かない。
「はぁ・・・国の一助となる気はない。そんなことする理由が私にはないよ。」
「理由ならある。二度とナユ族のようなことが起こらないために力を貸せ。
占者が行っていた。玉座の隣に立つ者と。それは、お前のことダ。」
「あれ、お前、お嫁さん探しじゃなかったのかよ?」
「・・・私は糸目の嫁になる気はミジンコほどもないぞ。」
「エドっ!!話を混ぜっかえすなっ!!俺だって、ナー・・ナギを嫁さんになんて考えてなイっ!!宰相にと言っただろうガ。
・・・占者の言葉を思い出したんだ。玉座の隣に立つ者といえば、右腕になってくれる宰相だ。嫁さん・・・つまり、皇后なら玉座の隣に座る者だろう。
・・・占者の占いはよく当たる。俺はお前に会いにココに来たんダ。
お前は、よく人を見、先を見る。その力を俺に貸してほしい。
俺が今は皇帝だ。が、俺を諌めてくれる者はいない。前皇帝のように俺が道を誤ったりしても、誰も・・・フーは死んだしな。だが、お前にならそれができル。」
リンの真剣な目が見える。・・・ナギは困った様子だ。
「あー・・・い・・・リン・ヤオ。私はまだこの国でしなければならないことがある。せっかくの申し出だが・・・」
「はいっ!!ナギさんっ!!」
「なんだアル?」
勢いよく手を上げて、アルが話に割ってはいる。うん、これでこそアルだ。素直だな。
「僕も手伝います。」
「「なにっ!?」」
エドとナギの声がハモる。
「僕も、錬成陣を破壊するのを手伝いますっ!父さんの望んだことを、僕も少しでもしたいんです。・・・だから、僕にこの記憶の錬金術、教えてくださいっ!!」
そう言って、アルは頭を下げた。
「本気か?」
「はい。」
真っ直ぐな目でアルがナギに頼む。ふと、ナギと目があった。
「・・・俺からも頼む。くそオヤジだったが・・・最期の願いくらい、叶えるのを手伝ってやってもいい。」
ぶっきらぼうな俺の言葉に、ナギは少し笑った。
「そうだな、ホーエンハイムから教わったことを、息子であるお前たちに教えるのは自然の流れだ。いいだろう。」
「ありがとうございます。・・・あの、それと・・・父さんのことも、もっと教えてくれませんか?」
「教えるほどあまりネタはないぞ。・・・そうだな、トリシャさんだっけ?奥さんのことをベタ褒めしてたくらかな。」
「「母さんのこと?」」
「あぁ、自分のことを聞いて、それでも驚かずに普通に接してくれたのはトリシャさんと、あと・・・もう一人、近所の婆さんだけだって。」
「ピナコ婆っちゃんのこと?」
「そう、その人。リゼンブールって凄いとこだなって思った。」
「・・・そういう話をもっと聞きたいんです。」
「こんな話でよければいくらでも・・・エドワードは聞きたくないみたいだが?」
「・・・そんなことはない。少しくらは聞いてやってもいい。」
「じゃ、二人とも今日から私の弟子だな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「はぁ、また修行か・・・俺、錬金術出来ないんだが・・・」
作品名:One Year Later 2 作家名:海人