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【腐】君を探す旅・1【西ロマ】

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 ……というのが一週間前。
 我ながら、よくイギリス相手にあそこまで強気になれたと感心する。相当スペインの言葉で頭が混乱していたらしい。
「イタリアの一人、か……」
 スペインの初恋の相手が、自分達イタリアの前任者だったということだろうか。ロマーノが生まれた頃はまだ小国ばかりで、『国』がごろごろしていてもおかしくは無い。そもそも全てを纏める祖父が居た位だ。
「他に居た……ような気もすんだけどなぁ……」
 首を捻り考えるが、自分と弟以外の『イタリア』を思い出せない。今はセボルガなんて奴も居るが、ちびの頃に他の『国』に会った覚えが殆ど無い気がした。自分の知らぬ所で、いつの間にか減っていたのかもしれない。
「うあー、わかんねぇ!」
 考えても仕方無い。後はイギリス様に任せようと諦める。
 初恋の相手を知った所でどうにもならないが、自分の知らない『イタリア』は気になる。……いや、相手が自分が足元にも及ばないような人で、きっぱりスペインを諦められるのを望んでいるのかもしれない。
 告白して玉砕したくせに引きずっている自分に呆れる。とにかく終わりを探そうとしているのだろうか。苦しみたくないと止めを探す姿は、きっと滑稽だろう。
「全然諦められてねーし」
 告白した時は、これで全部終わるのだと思っていた。
 なのに、今も彼を愛している。
 両手で顔を覆い、自分の駄目さに涙を零す。どれだけスペインに迷惑を掛けるんだと自己否定を繰り返し、いっそ死んでしまいたいとも思った。最も、今死ねたとしてもスペインが自責の念に捕らわれるだろうから出来ないが。
「……あ」
 どれ程殻に閉じこもっていたのか、部屋はすっかり暗くなっており、サイドテーブルに投げたままの携帯に光がともっている。恐る恐る手に取れば、相手はイギリスだった。

『件名・例の
 本文・次の満月の日に、荷物持って家に来い』

 調べてくれるだけだと思っていたが、何だか話が変な方向に行っている気がする。荷物とは何を指すのか。
「実際に見て来~い! なんてなー。……無いよな?」
 明るく言ってみるが、その線がありそうで困る。魔法どんだけだよと突っ込みたいが、本人がここに居ないので無意味だろう。
 どういう事か聞きたいが恐ろしいことは聞きたくないので、ロマーノはなるべく考えないよう、大人しくイギリスの指示に従うことにした。


「……チャオ」
 Tシャツの上に長袖のシャツを羽織り、下はジーパンとごつめのブーツ。色々考えた結果、中途半端な服装でロマーノはイギリスの家を訪れた。肩掛け鞄の中には着替えと便利グッズに携帯食料。ちょっと近くの山に登ってくるというような格好に、乾いた笑いしか出ない。
(何が起こるんだよ、怖えぇ……)
 恭しく邸内を案内してくれる執事に恐縮しつつ、主の部屋を訪ねる。そこに居たのは、怪しげなマントをつけ曰くありげな本を抱えたイギリスだった。おまけに足元に恐ろしい魔方陣まである。
(うわー、モロ黒魔術。これ完璧に黒魔術!)
 何がブリ天だ、悪魔じゃねーかというツッコミを飲み込み、泣きそうになる顔を何とか整える。震えだしそうな足を動かし入室すると、背後で静かに扉が閉められた。
(怖えええええええええ!)
 どう見ても生贄にされそうな流れだが、何とか踏ん張る。
 ロマーノが必死に恐怖と戦っている間に準備が済んだのか、ようやくイギリスがこちらに顔を向けた。
「来たな。流石は俺、いい魔法が見つかったぜ」
「もう帰りたいですコノヤロー」
「なんでだよ! お前が言い出したことだろうがっ」
 弱気な返答に、イギリスがポコポコと怒る。忙しい合間で調べたんだぞと怒りながら、ロマーノに陶器で出来た小さな赤い薔薇を手渡した。
「これが時計だ。この薔薇が白になったらこっちに戻る」
「時計? 戻る?」
 愛らしい薔薇を握ったのを確認し、ロマーノの質問に答えることなくにんまりと笑うと、イギリスは星の飾りのついたステッキを振る。
「んじゃ、行ってこーい!」
 その掛け声と共に意識が薄れ、足元が崩れたような気もした。深い闇へ放り込まれるような感覚。ただ手の中の薔薇を失くさぬよう強く握り締め、ロマーノは旅立った。
 全てが終わった部屋に立っているのは、イギリス一人。やれやれと溜息をつき、上質なレザーの椅子に座る。ステッキと魔術書を机にしまうと、執事に紅茶を頼む為に呼び鈴を鳴らした。