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【腐】君を探す旅・1【西ロマ】

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「はあっ……はあっ……」
 流石に追跡者のいる緊張の中走るのは息が詰まる。そう思い前を走る子供を見れば、怪我をしている足がつらそうに動いていた。
「おい、ガキ」
「ガキやあらへんよ」
「何処へ行くか知らねーけど、まだ遠いのか?」
「あとちょっとやけど……」
「そうかよ。じゃあ乗れ」
 気付いてしまったのなら仕方無い。何となくスペイン国民に甘くなってしまう自分に苦笑しつつ、ロマーノは子供に背を向け乗るよう指示する。
「俺が全力で走った方が、お前に合わせるより速い」
 ライトを鞄にしまい、戸惑う子供を背に乗せ全力で走り出す。イタリアの逃げ足を舐めるなよと自慢出来ない自慢を口にし、ロマーノは口元に笑みを浮かべながら走り続けた。
 少年の指示に従い森を抜け街道へ入る。ロマーノが体力の限界に到達する頃、二人はようやく小さな村に到着した。
「も、もう無理だぞコノヤロー……」
「兄ちゃん足速いなぁ」
「うるせー、大体何で俺がこんな目に……」
 ここまで来れば大丈夫。そう笑う子供の言葉に脱力し、地面に膝をつく。汗と体温で辛くなりパーカーを脱げば、涼しい風がロマーノを助けてくれた。
 脱いだ服の袖を腰で縛り、もう汚れてもいいやと地面に座る。暫く体温を下げる風にあたっている間に、子供は何処からか水を持って来てくれた。
「はい、兄ちゃん」
「グラツィエ」
 昔懐かしい木のカップを受け取り、水をぐっとあおる。新鮮な水にようやく緊張が取れ、ロマーノは改めて子供を見た。
 黒い髪に緑の瞳。焼けた肌に……何ともレトロな服を着ている。自分が子供の頃見た服に似ているなと思っていると、今更変な感覚に気付いた。
 この少年、『国』だ。
「え、お前……『国』?」
 スペイン語圏内に、こんな子供の『国』が居ただろうか。支配国でも保護国でも増えれば国際ニュースになる筈。それ以前に、彼に関わるニュースを自分が知らないなんてありえない。
 驚きぽかんとする顔が面白かったのか、少年は笑いながら腰に手を当て胸を反らした。
「せやで! 今をときめく『アラゴン』や」
「あらごん~?」
 どこの国だよと首を捻り、頭の中で世界地図を開く。
 ロマーノの反応に気分を害したのか、アラゴンと名乗る少年は頬を膨らませて怒った。
「イベリア半島のアラゴンやで。そらイタリアと比べたら田舎かもしれへんけど……。あ、兄ちゃんイタリア語喋っとるし、『イタリア』やんなぁ?」
 きらきらとした瞳を向け、アラゴンがそう聞いてくる。対するロマーノの頭は混乱しっぱなしで、状況整理の為にも少し時間が欲しい。ふと手にしたままのコップに視線が留まり、慌てて彼に突き出した。
「その前に、水、もう一杯!」
 しゃーないなぁと取りに行く背中を見送りつつ、急いで状況を纏める。汗で張り付く髪を掻きあげ、腕を組んで考え込んだ。
 彼が名乗ったイベリア半島の『アラゴン』。そう呼ばれた男を、自分は良く知っている。沈まない太陽と謳われた男、その前身の名が『アラゴン』だった。
(あいつ、昔のスペイン……?)
 過去に飛ばされた。そう考えると、謎の男達の武器の古さも少年が着ていた服の古さも、村の質素さも木のコップも全て理解出来る。
「マジで『行ってこーい!』だったのかよ……」
 魔法どんだけだ。
 前にも似た突っ込みをしたなと肩を落とし、ジーンズのポケットに突っ込んだ赤い薔薇を取り出す。確かこれが白になったら戻るとイギリスは言っていた。
「……いつ白くなるんだよ」
 真紅の薔薇に白の影は見えない。終わりの見えない旅に突き落とされたと気付き、ロマーノは頭を抱えた。