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【腐】君を探す旅・1【西ロマ】

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(この時代、トマトが無いっ……!)
 トマトはスペインが航海時代に持ち帰ったもの。今はまだアラゴンの時代だというのなら、食用トマトはヨーロッパに存在しないことになる。
 冷静に別に暫く食べられなくても大丈夫と自分に言い聞かせるが、考えれば考える程トマトが食べたくなるものだ。好物が無い状況に心が折れたロマーノは、その場にパタリと倒れた。
「ど、どうしたん?」
「……いや、腹減っただけ」
 いきなりの叫び声に驚き戸惑っている子供に心配され、悩みの原因に恥ずかしくなってくる。慌てて言い訳したもののそれもまた食事関連で、自分の食い意地に少し絶望した。
 山に戻って何か探すかなと言い訳を重ね、さてこれからどうしようかと悩む。
 宿なし、食べ物少量、水なし。かなり残念な状況だ。
「お前何であんな所に一人で居たんだよ」
 まだ山に男達は居るだろうかと考え、そういえばと疑問を向ける。いくら『国』とはいえ、一人で敵と思わしき奴等がいる山に行くのはどうなのか。何か用事があったのかと聞けば、彼はしょんぼりと肩を落とした。
「レコンキスタやーって進軍してたんやけど、奇襲受けてな。部隊バラバラになってしもうたんや」
 もし何かあったら、この村に集まることになっている。そう話す子供の顔には不安が見える。今彼がロマーノの傍に居るということは、仲間が見つからないのだろう。
「あー、ええと……」
 何か子供の気が紛れそうな、好きそうなものとか無いか。
 『国』の見た目に騙される気は無いが、自分の成長を思うと体と精神年齢は割と比例するような気がする。
 ロマーノは鞄を漁りおやつのビスコッティを見つけ出すと、アントーニョに差し出した。
「食うか? ビスコッティ」
 イタリアの菓子だと言えば、もの珍しさから食いついてくる。ここにコーヒーが無いのは残念だが、二人並んだままのんびり齧った。
 ちらりと隣を覗けば、アントーニョは珍しいものを食べられてご機嫌のようだ。随分暢気な姿だが、茂みの中で震えていた姿よりもずっといい。むしろ子供らしくて結構、といった所か。
「材料さえあれば、もっと美味いもんも作れるんだけどな。にほ……いや、他国の料理に興味のある奴が友人に居てさ。俺も結構色々教わったりして、料理には自信があるんだぞコノヤロー」
「ロヴィ聖職者じゃなかった?」
「聖職者の前に『国』だからな」
 見聞広く居ようと思っていたんだと丸め込み、辻褄を合わせていく。美食国家のイメージはこの頃からあるようで、彼はそうなんと納得した。
 その後も服装を突っ込まれれば「イタリアの流行」、靴の作りの良さを「『国』だから特注でいいものを作って貰っていた」という言い訳で無理矢理乗り切る。
 ロマーノの言い訳や誤魔化しを素直に受け入れるアントーニョに良心が押し潰されそうだったが、本当のことを告げることは出来ないので心の中で何度も謝った。
 二人で話していると、近所の老人が声を掛けてくれる。子供連れで宿無しだと話せばいたく同情され、納屋を寝床に貸してくれることになった。
 積まれた藁をベッド代わりにし、疲れた体を横たえる。念のため陶器の薔薇を確認したが、先程見た通り真紅だった。
「みんな……」
 寝る前に歯を磨きたいなぁとぼんやり考えている横で、アントーニョがそう小さく呟く。静かに震える肩に胸が苦しくなり、ロマーノはそっと子供を抱き寄せた。
「朝になったら山を探すか。俺も手伝ってやるから」
 ゆっくり背中を撫でれば、胸元に顔を埋めたアントーニョが小さく頷く。小さな愛しい人を腕に抱き、ロマーノは奇妙な満足感に満たされた。
(昔はよくスペインとこうして眠ったっけ……)
 額にキスを贈れば、アントーニョがびっくりした顔を上げる。それに笑い返し二人は眠りについた。

 翌朝、二人は老人に礼を言い森の捜索を開始する。街道に近い場所で発見したのは、血塗れで倒れこむ男の姿だった。