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【腐】君を探す旅・2【西ロマ】

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「トマト……はぁあ~……」
 家に戻り、食材をしまいながら溜息を零す。ちょっとでも夢見てしまったせいで、またトマトが食べたくなってしまった。愛すべき各種トマト達が恋しく、ここに来た目的を忘れて帰りたくなってしまう。
「トマトって何?」
 布団を取り込み簡単に掃除を終えたアントーニョが、ロマーノの溜め息につっこむ。いつも通り誤魔化そうかと思ったが、これはと思いきっちり説明してやった。
「トマトっつーのは、海の向こうの国にある真っ赤な野菜でな。食用に改良した奴を食べたことがあるんだけど、すっげー美味いんだぞコノヤロー。こっちにもアレがあればいいのにな、って思っただけだ」
 ほおずきに似ているが大きくて赤いと、手で丁寧に形作る。
「もしお前が他の国で見つけたら、持って帰るといいぜ」
「へー、わかった!」
 素直に頷くアントーニョの頭を撫で、ぜひ頼むとお願いしておく。もし彼の気が変わり、南アメリカからトマトを持ち帰らなかったら大変だ。しっかり念押ししておかねば。
「ロヴィは物知りやんなぁ」
 井戸から水を汲んできたロマーノに、お湯を沸かす為火をつけようとしていたアントーニョが溜息のように漏らす。自分の勉強不足を落ち込んでいるような姿に、慌ててフォローしようと思考を巡らせた。
「イタリアはエジプト側と交易があるから、バナナとか珍しい食材も色々入ってくるんだよ。俺料理好きだしな!」
 ごま油って知ってるか? と珍しい食材の話で話題をずらす。あくまでも知識はイタリアの交易によるものだと印象付けるようにし、少年の落ち込みを何とか軽減させた。
「イベリアが落ち着いたら、他国に行ってみればいいさ」
 聞くよりも、自分の目で見たほうが早い。そもそも勉強不足ではなく戦争で勉強する機会が無いだけだから、何もそこまで落ち込むことはないのだ。
 アラゴンはこれからだろ? と笑えば、アントーニョの顔にようやく笑顔が戻った。
「せやね、俺もいっぱい知りたいわ!」
 腰に抱きついてくる子供の頭を撫で、その意気だと褒めてやる。やっぱりスペインは笑っている方が良い。
「ゆっくり大きくなればいいさ」
 するりと口から出た言葉に、思わず苦笑する。
『ゆっくり大きくなればええよ』
 何も出来ないと泣いた自分に、スペインが言った言葉。少しずつ、心も体も成長すればいいと慰める声。あの時は恥ずかしくて怒ってしまったが、こんな時に自然と出る程自分の中に染みこんでいる。
 ……いつか、この想いも思い出になるのだろうか。
 こんなにも染み付いた彼の痕跡を、消せるのだろうか。
 スペインを愛していない自分なんて想像出来ないのに。
 ざわめく心を抑えるように、アントーニョを抱きしめる。腕に伝わる感覚は柔らかく、対比するようにスペインの逞しい筋肉を思い出してしまい泣きそうになった。

 夕食の席ではテーブルマナーについてひと悶着あったものの、何とかこの時代の流行という手づかみは止めて貰う。嫌がられながらも教えてみたが、きっとこれから役に立つ筈だ。
(お貴族様は煩そうだしな)
 マナーは覚えておいて損ではない。いずれ出会うであろうオーストリアに怒られないよう、最低限のマナーを教えておこう。
「おら、もう寝るぞコノヤロー」
 今日は濡れタオルで体を拭くだけにし、さっさと眠ることにする。いつものように服を脱ぎ捨ててベッドに飛び込めば、暖かい太陽の匂いがした。
「っ、はー……」
 イギリスに飛ばされてからこちら、ようやく安心出来た気がする。両手両足を伸ばして力を抜き、ベッドの上で出来る限り大の字になった。
 ……なったのもつかの間。思い出したように飛び起き、荷物を漁って陶器の薔薇を見つける。薔薇の色は赤いままだが、気のせいか少しだけ真紅から変化したように見えた。
「時計とか、もっと分かりやすいものにしろよなー」
 ぽいっとサイドテーブルに投げ、またベッドに沈み込む。
 前線からここまで戻るのに二週間かかった。それでこの程度の変化なら、まだまだこちらに居させられそうだ。
(『イタリア』に会うチャンスなら、ナポリ王国のあたりか?)
 確かナポリ王国の王族はアラゴンの血統だった筈。昔の記憶を思い出そうと、ロマーノは眠りの世界へ旅立った。

 深い夜の色を沈み続け、床に着いた先に浮かぶのは一冊の本。『イタリア=ロマーノ』が生まれてからを記録し続ける『歴史』だ。 星の光を発する本を手に取り、沢山挟まれたしおりを確認する。
(赤いリボンはスペイン。青いリボンはフランス。緑のリボンはオーストリア……)
 支配者が代わるサインであるしおりの中で赤いリボンがついたものを探し、その中で一番先頭にあるページを開いた。
 ページによるとアラゴン王がナポリを完全支配するのは十五世紀。アントーニョから聞いた年代と照らし合わせれば、今のイタリア半島南部は視界に入った青いリボンから察するにフランスの連中がのさばっているようだ。
(年代間違って来ちまったのか?)
 アラゴン王家のナポリ王国まで、あと一世紀はゆうに必要。まさか百年もこちらに居る羽目になるのか。薔薇の具合からして、そこまでの時間は無さそうに思えるが……。
 本を閉じ、溜息をつく。どうやら簡単には帰れ無さそうだ。
 こうなったら楽しんだもん勝ちだとやけになり、ロマーノはぱったりと倒れた。