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【腐】君を探す旅・2【西ロマ】

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「いてて……」
 熱と痛みがぶり返し、思わず右手を振る。
調節の出来ない火で少し火傷をしてしまい、ロマーノは薬を探しに町へ来た。薬が無かったら、そこらに生えているマリーゴールドでも混ぜて軟膏を自作するのもいいかもしれない。
 昔ハンドクリームを自作した方法を思い出しつつ、前を歩く少年の頭を見下ろす。目の前をぴょこぴょこ動くくせっ毛の髪は柔らかく、ついつい撫でてしまう一品だ。
 もしかしたら昔の自分もそうだったのだろうか。
 ふと自身の髪を撫で、あの頃はどんな柔らかさだったっけかなと首を傾げる。今のアントーニョみたいな柔らかさだったら、そりゃスペインも撫で倒した訳だと納得した。
「なー、今日は何作るん?」
 くるっとこちらを振り返り、アントーニョが夕飯のメニューを聞く。アラゴンは内陸の国なので中々いい魚介類が手に入らず、肉ばかりだったがそろそろ貝か蛸が食べたいものだ。
 なら少しばかりの海産物でパエリアでも作ろうか。そんなことを話しながらまずは肉屋へ向かうと、いつも明るく迎えてくれる主人の姿が見えなかった。
「おっさん、どうしたんだ?」
 ごめんなさいと待たせたことを謝りつつ奥から出てくる看板娘に構わないと笑顔で手を振り、主人の不在を聞いてみる。すると体調が悪いみたいで……と言葉を濁した。
 食べ物を扱う店で病気とは聞こえが悪いだろうから仕方無いとはいえ、いつもオマケしてくれるおっさんの病気とあらば心配になる。『国』が死に至るような病気にならないのをいいことに、二人は見舞いに顔を出すことにした。
 奥さんによると、主人は腹を下しているという。
「匂いがおかしいから食べちゃ駄目って言ったのに」
 と文句を言う姿から、ロマーノは心配して損した気分になった。なんだかなぁと思いつつ、一応顔を出してみる。粗末な寝台で寝ていたのは、土気色の顔をした主人だった。
「おいおい、結構やばそうな顔色してんな」
「し、死ぬ……もう死ぬんだ……」
 かさかさの唇で、主人はそううわ言のように呟く。何か食事は取れているのかと聞けば、丸一日まったく何も口にしていないと答えられた。
 そりゃ死ぬなと呆れ、せめて水だけでも飲めと突っ込む。下痢の脱水症状を甘く見たら本当に死んでしまうだろう。
「アントーニョ、白湯くれ」
「水やなくて?」
「冷ました白湯の方が体に優しいんだ」
 台所を借り、簡単に水分を吸収しやすいものを作る。確か経口なんとかというものだったとドラマの場面を思い出し、あの難民キャンプの回は良かったとしみじみしてしまった。
 白湯に少しの砂糖と塩を入れ、しっかり混ぜる。少しずつでいいから必ず飲むようにと奥さんに渡し、二人に挨拶して部屋を出て行った。
「父さん大丈夫かしら……」
「全部悪いの出きるまでの辛抱、かな」
 ただの下痢ならそれで収まる筈。あとは脱水との戦いだ。
 看板娘になるべく水、出来れば白湯を飲ませるように話し、二人は買い物を済ませて次の店へ行く。なるべく早く主人が復活してまたオマケして欲しいななんてと考えていると、今度は目の前で女性が倒れた。
「大丈夫かっ」
 女性の危機とあらば動かざるを得ない。超スピードで動くロマーノにアントーニョが唖然としている隙に、意識と呼吸を確認する。顔の赤さからすると、どうやら熱中症のようだ。
「おい、アントーニョ。手伝ってくれ」
 子供と一緒に女性を日影に移動させ、近くの店に水を桶で貰う。ついでに先程の店で残っていた白湯を分けて貰い、アントーニョが飲ませている隙に体を冷やすことにした。
 桶に突っ込んだ布で首やあちこちを拭き、濡れたところで扇いでやる。気化熱で冷えるよう何度も繰り返せば、ようやく女性の瞳にはっきりとした意思が見えた。大事にならなくて何よりだ。
「まだぼんやりするか?」
 少しふらふらとしている体を支えつつ、ベッラに優しく声を掛ける。その横でアントーニョが呆れた顔をしていたが、ロマーノは無視した。
 幸いにも症状は軽く、正気を取り戻した女性はお礼にと家に呼んでくれる。ワクワクしながら向かった先はいつもの八百屋で、娘を助けてくれた礼にと山盛りの桃をくれた。