【腐】君を探す旅・2【西ロマ】
「嬉しいけど、ちくしょう!」
家に来てという台詞に期待した自分がバカだった。しょんぼりと買い物を終え、家に戻る。よく考えればアントーニョも一緒に呼ばれた時点で気付くべきだっただろう。
「ロヴィのそれはもう病気やね」
冷ややかに告げられる内容に、イタリアですからと返しておく。お前だって可愛い女の子は好きだろうと突っ込み、ふと気付いた。
(スペインの初恋の『イタリア』って女?)
どういう訳か『国』には男が多い。戦争が団結を生み国を作り上げるせいか、戦いに向いている性別が選ばれているのかもしれない。
自分と似ている女の『国』。顔が同じなのは、たぶん同じ『イタリア』だからだ。弟と似た顔の自分の頬に触れ、一体どこの国なんだろうと考えた。顔がより似ているというのなら南のシチリアか、まさかのバチカン?
(いやいや、バチカンは爺さんだし)
バチカンとの橋渡し的な仕事をしているロマーノの脳裏に、あの爺さんと思っていた相手は実は女性だったのかと想像が広がる。が、即残に首を振りそれだけは無いと否定した。キリスト教の聖地ならば『国』は当然男だろう。
ならシチリアだろうか。ナポリにあたるのは実質自分の筈。
(シチリアなら納得出来る……か?)
本土の国では無いからか、自分の知らないうちに『国』が生まれ消えていてもおかしくはない。
「あー、わっかんねぇえええええ!」
やっぱりあそこで逃げず、もっと根掘り葉掘り聞き出すべきだった。俺の根性無し、ばかやろう! と膝をついて頭をわしゃわしゃと掻く。その声に振り向き、無言で食料を閉まっていたアントーニョが手を止め背後から抱きついてきた。
「そんなにあの娘のこと気に入ってたん?」
「は?」
まったく違うことを考えていたので、急に反応出来ない。この子供は何を言ってるのだろうと首を傾げると、彼は何かを悟ったのか「何でもない」と離れてしまった。
「ロヴィのにぶちん!」
更にはそう言い捨て、台所を出て行ってしまう。
「何で俺が怒られてんだよ……」
ただ一つ分かることは、あのスペインでも昔は空気を、というか相手の感情を読むことが出来たということだけだった。
夕飯のパエリアを広げ、貰った桃を甘く煮てデザートにする。始めはぶすっとしていたアントーニョだったが、食事を食べるにつれどんどん機嫌が良くなっていた。美味しい食べ物の力は偉大だ。
そういえば自分がスペインに慣れたのも、食事が美味しかったからなのが取っ掛かりのような気がする。きっとイギリスが支配国になっていたら、慣れる所か命すら危ういだろう。
「明日は桃をパイにすっか」
食事の後片付けをアントーニョに任せつつ、まだまだある桃の使い道を考える。久しぶりのパラグアジョに鼻歌を歌っていると、洗い物を終えたアントーニョがパタパタと走り寄ってきた。
「なー、ロヴィ。ロヴィってお医者様なん?」
「んな訳ねーだろ。俺は『国』だぞ」
「でも、町で!」
患者さんを診ていたじゃないかと両手を振りながら力説されるが、あんなの普通だと切り捨てる。吐きそうだったら顔を横にして喉に詰まらないようにしてやったりするだけで、医療知識はドラマと漫画のみ。まったく当てにならない。
色々と嘘をついているが、流石に医者だと嘘をつく気にはなれないのでキッチリ否定しておく。
「あえて今職業をつけるなら……聖職者ってよりも料理人だな」
うむ、これならしっくりくる。明日も美味いもの作るぜと笑えば、アントーニョの顔が輝いた。
「俺、ロヴィのご飯好きや~」
にこにこと笑う顔に、そうだろそうだろと満足気に頷く。柔らかい髪をひと撫でし、ご機嫌なロマーノはアントーニョの申し出を一つ返事で受け入れた。
(やっぱり子供だな)
一緒に寝たいなんて、可愛らしいことを言うものだ。日頃抱きつきまくる姿からも子供らしさが伝わる。この子が後一世紀もすれば大人になるのかと思うと、何やら感慨深い。
ナポリを占領し、アラゴンはカスティーリヤと併合する。その頃にはスペインに変わり、ようやく自分達は出会うのだ。あの時点でのスペインは既に大人の姿で、この腕の中に納まる子供とは随分違う。
(急にムキムキしやがって!)
こっちは数百年でなんとかなのに、この違いはずるい。ぴったりくっついて眠るアントーニョを抱きしめ、心の中で「縮めっ」と祈ってみた。完全に八つ当たり……いや、本人なのだからいいのか。
そんな呪いにも似たものを向けられているとは気付かず、アントーニョは嬉しそうに抱きしめられたままだ。それどころか「ロヴィ大好き!」と頬にキスをする始末だった。
何だか分からないが、めちゃくちゃ懐かれている。
まぁ同じ『国』同士だし、一人での暮らしが寂しかったのかもしれない。何よりスペインを甘やかすことが楽しく、ロマーノはこれって親孝行になるのかなと微笑んだ。
作品名:【腐】君を探す旅・2【西ロマ】 作家名:あやもり