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【腐】君を探す旅・2【西ロマ】

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「はあぁ……」
 溜息しか出て来ない。恋愛なんて面倒くさいと思っていたのに、相手がロマーノだと思うと逃げられない。
 だって、本当は嬉しかったのだ。
 人嫌いのある彼が誰かを愛して、それが自分だったことが。
 あの愛らしい顔を真っ赤にして告げられた言葉が、嬉しくない筈がない。……ただ、彼に隠せないこともある。それが過去の自分が好きだった相手についてだった。
「何で似とるんやろなぁ」
 つい口を出た言葉に、フランスがきょとんと首を傾げる。こうなったら恋の百戦錬磨に頼るしか無い。藁にも縋る思いで、スペインはぽつりぽつりと思い出の『イタリア』について話し始めた。
「昔……お前に会う前にな、俺、とある『イタリア』に会ったことあるんよ」
 レコンキスタの戦いの中、部隊は散り散りになりはぐれた自分が追われていた森。そこで出会ったのが、旅をしているという『イタリア』だった。
 いきなり背後から口を塞がれ驚いたものの、伝わるそれが『国』のもので急に安堵してしまう。イベリア半島しか知らなかった子供の自分は敵対する『国』を見たことがなく、同じ『国』であるだけで落ち着いてしまったのだ。
 追っ手を気絶させ、初めて彼を見た時のあの衝撃は今でも忘れられない。
 暗がりの中、そこだけが明るく抜き出されたような感覚。見た事も無い服装であるが、均整の取れた体は絵画のようだ。柔らかいダークブラウンの髪はさらさらと揺れ、猫目のような双眸がこちらを真っ直ぐに見つめていた。
 美しい人だ。
 まず頭に浮かんだのは、そんな感想。気付けば彼の手を取って走り出していた。逃げなくてはならないのを言い訳に、彼と一緒にいようとする。そこには計算などなく、離れたくないと叫ぶ本能しか無かった。
 何とか村に辿り着いた彼が、暑いのか上着を脱ぐ。不思議な形の上着を脱いだ下には、見知った十字架があった。同じ神様を信仰しているというだけで親近感が更に涌き、そうだと思いつき水を貰いに行く。部隊がバラバラになる前にこの村に寄っていたスペインには、見知った村人が多かった。
「へぇ、その男が『イタリア』?」
「せやで~。もう完璧な一目惚れ。俺、昔も今もイタリアに弱いわぁ」
 苦笑しつつ、あの時聞かされた寂しい話をする。彼の話はスペインの胸をきゅっと締め付け、言いようの無い不安を植えつけた。
 『国』の消滅。気付かないようにしていたそれ。
 目を逸らし耳を塞いでいた未来が、すぐ隣にある。
 『イタリア』である彼がスペインを放浪していた理由は悲しいものだったが、言い方が悪いがそのお陰でロヴィーノはスペインの家に留まってくれることになった。
 それからの日々は幸せだった。一人で暮らしていた家は笑いに溢れ、暖かい光が灯っている。更に消滅を待つ体だというのに、彼は気楽に日々を過ごしていた。
 その姿は消滅を恐れたスペインの心を、静かに優しく支えてくれる。恐れなくていいのだと、時代に身を任せていいのだと言うかのように。自分も消えるなら、こんな風に穏やかに逝けたらいいなと望む程に。
「ロヴィはめっちゃ色々知っててな。お医者さんみたいだし、やっぱり聖職者やってたって感じもあるし、料理も美味い」
 何てことのない顔で、村の人を手当している姿。今の知識からすれば普通の手当かもしれないが、あの当時は凄いものだった。おまけに外科手術までしている。
 彼と生活するのは驚きの連発だった。ロヴィーノはまるで先生のように色々教えてくれ、時には兄のように叱ってくれる。甘えたいと思えば、仕方ないなという顔で両手を広げてくれさえした。
「あ、もしかしてお前の『親分』ってそこから?」
 フランスが意地悪い顔でからかう。その言葉に頬をかき、スペインは反論しなかった。
 あの日々が楽しくて、また再現したいと思っていたのが根底なのは否定出来ない事実だ。共に暮らす為に考えた親分子分の形は、スペインの心を満たしていく。寿命の長い『国』と過ごす時間は、まるで人の家族のようだった。