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【腐】君を探す旅・3(完)【西ロマ】

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 たどり着いた村に拠点が敷かれ、ロマーノは今日の食事の用意に入る。手伝おうとするアントーニョを作戦会議に追い立てていると、同じように雑務を担当している若い男が隣で苦笑した。
「自分、随分アラゴンに気に入られとるなぁ」
 あんなに甘える姿を始めてみたと笑う男の言葉に、疑問符を浮かべ首を傾げる。会った時から今まで、アントーニョはまさに子供といった甘えっぷりだ。確かに同じような外見の子供よりはしっかりしているが、何かにつけ傍に寄りくっつこうとする姿は、親にまとわりつく子供そのものだった。
「そうか? あいつ結構ピアニョーネ(泣き虫小僧)だぞ」
 一緒に寝ようという誘いを断ると泣く程の甘えん坊。
 そう話せば、男は面白そうに笑った。その瞳は優しく弓を描き、ふと周りを見れば近くに居る連中も同じように笑みを浮かべている。何だか柔らかいもので包まれているような感覚に、ロマーノはいたたまれない気持ちになってきた。
 料理を終え、交代で見張り役に立つ。ロマーノの作る料理はこの時代の人達にとって斬新で、食事を用意する度に部隊の者たちとの壁が薄くなっていくのを感じる。そのおかげか、料理に集中出来るよう見張りの番も最低限にして貰えていた。美味しいものは世界共通らしい。
「ロヴィ……」
 森側を警戒しながら立っていると、足元にアントーニョが眠そうな顔で寄ってくる。明日は作戦決行の日。そのメインに居る国が休まなくてどうするんだと注意したが、子供は頑として傍を離れようとしなかった。
「おいロヴィーノ。ここはもういいから、アラゴン寝しつけてくれ」
 困り果てていたロマーノに苦笑し、近くを見張っていた兵士がそう声をかけてくれる。見張りは重要だが、アラゴンの体調も重要。ありがたく申し出を受け、ロマーノは子供の手を引いて寝床へ移動した。
 べったりと床に座った背中にくっつく子供をよそに、日課になっている薔薇のチェックをする。その色は既に薄いピンクになっており、この旅の終わりを視覚で伝えていた。
「ロヴィ」
「何だよ、ピアニョーネ」
「……泣いてへんわ」
 からかいに反抗するが、響く声は濡れている。抱きつかれた背中は熱く、子供が泣いていることを伝えた。
(情緒不安定だな)
 戦場の空気に飲まれているのかとも思うが、ここに来る直前からこんな感じだった気もする。「どうした」と腕を撫でてやれば、小さい声で「まだおるよね?」と返された。
(あ、俺が消えることを気にしてんのか)
 ようやく気づいた理由に胸がぎゅっと締め付けられる。
 身近な保護者が居なくなるというのは、恐ろしいものだ。自分も身に覚えがある感覚なので何とも拒否し難い。特に思い出されるのは自分がスペインへやって来た頃のこと。目の前の大人が信じられるのかどうか悩み、ようやく少し心を開いた辺りだ。
 嫌われるのではないか、捨てられるのではないか。
 そんな不安が常に付きまとい、心が徐々にしぼんでいく。祖父の件で一度恐怖を味わったせいで、スペインがどこかへ出かけてしまう度に不安に駆られていた。
 あの頃の自分は「居なくなってしまうかも」で、今のアントーニョは「居なくなる」。確定事項ゆえに恐怖も大きいのだろう。
 こんなことなら、共に居なければよかったのか。そんなことが頭に浮かぶ。
 だが一緒に暮らすことでスペインへの想いや考えの整頓、わずかでも彼を理解出来たのだ。ロマーノにとっては良かったとしか言えない。
 しかし、アントーニョにとってはどうなのか。肝心の子供の心を失念していたと後悔する。ただ、もう起きてしまった事態を無かったことには出来ない。今ロマーノに出来ることといえば、なるべく彼の心の傷を押さえることだけだろう。
 子供の腕を力ずくで外し、体をぐるりと反転させる。驚くアントーニョと共に寝床に倒れ込めば、泣いていた顔が驚きからくすぐったそうな笑顔に変わった。
「ちゃんと、お前の帰りを待ってるよ」
 ぎゅっと子供を抱き、気休めのような約束をする。薔薇の色からしてもう少しは大丈夫な筈だ。余程のことでもなければ迎えるくらいは出来るだろう。
(つーか、マジで『イタリア』に会えねーな)
 そろそろ時間が無いというのに、一向にそういう気配が無いのが困る。まぁ、結局諦められないんだろうなと理解してしまった今では、別に会えなくてもいいのかもしれない。後はもう、二人だけの問題なのだから。