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【腐】君を探す旅・3(完)【西ロマ】

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「……絶対やで」
 額に落ちるキスを受け取り、アントーニョはロマーノの背中に腕を回す。揺れる瞳を覗き込み珍しくにっこりと笑うと、ロマーノは頬にキスを贈った。
 暫くすると、腕の中の子供は穏やかな寝息をたて始める。
 様子を見ながら体を離し、ロマーノはそっと見張りに戻ることにした。やっぱり重要な仕事を放置するのは心苦しい。特にここは一般人も住む拠点。攻められる訳にはいかないのだ。
 戻ってきたロマーノを見て、見張りの男たちは笑う。ちゃんと寝かしつけてきたからと伝えれば、交代で来ていた男は頷き戻っていった。
 夜空に広がるのは大きな月。静かな空間はこちらを飲み込みそうで恐ろしいが、普段なら震える足はぴくりともしない。アントーニョを守ろうとしている気持ちが働いたのか成長かは分からないが、いつもと違う自分の堂々とした姿にロマーノはにやりと笑った。
「ちぎっ!」
 ……笑ったとたん、近くの茂みが音を立てる。大げさに跳ねてしまい、思わず辺りを見回してしまった。誰も居なかったことに安堵しつつ、視線は茂みへ戻っていく。
(敵……じゃねーだろうな)
 じり、じり、と少しずつ歩いていく。麻痺していた恐怖が足元を絡め、中々足は進まなかった。先ほどは人が居なくて良かったと思ったが、今は誰も居ないのが恐ろしい。じんわりと視界がぼやけるのを理解しつつ、ロマーノは茂みの前まで歩いてきた。
(っ、せーの!)
 ぐっと拳を握り気合を入れ、茂みを大きくかき分ける。敵が居たらダッシュで逃げると決意し、ポケットに入れていたライトで念入りに確認。ふと見えた影に近づくと、そこには一人の女性が倒れていた。ライトを消しそっと近寄り呼吸を確認すれば、意識があるのか苦しそうな声を上げる。
「おい、どうした。大丈夫か?」
「う、うう……」
 女性が唸るだけで目を開けないのを視界に入れ、もう一度ライトをつける。ざっと見た感じでは怪我はなさそうだが、服に折れた木の枝や葉がついていた。まるで何かから逃げてきたような姿に、思わず息を飲む。
 ライトをしまい、ロマーノは女性を抱えて村へ戻る。診療用に開けてもらった部屋に連れ込み、濡らした布で顔を冷やして覚醒を促した。
 少しして気がついた女性は、辺りを確認して連れの男を探す。話によるとこの近くの山で雪の採掘をしていた商団が賊に合い、使用人の男を護衛に女性だけが逃がされたらしい。
「賊の場所は? どんな格好をしていた?」
 軍医が女性に聞くが、女性は頭痛と吐き気で中々思い出せないようだ。ただの持病だと苦しむ女性に謝りつつ、ロマーノは彼女の肩を触らせて貰った。
(あ、すげー凝ってる)
 何となく日本と同じ顔色で言うから触ってみたが、どうやら彼女も極度の肩こり持ちのようだ。頭を打った様子は無く、恐らく肩こりからくる吐き気と頭痛が苦しいのだろう。
「何や辛そうやし、少しマッサージしてもええ?」
 何事か急に呼び出された軍医の背中を見送り、横になって苦しむ女性に声をかける。やはり肩こりの体質だという話に恐る恐るマッサージを申し出れば、触られるのは少し恥ずかしいけれどと言いながらも了承してくれた。
(ふっふっふ……日本直伝の東洋マッサージを味わえ!)
 見た目の割に年齢のいっている日本は肩こりが持病であり、ロマーノはよく彼の家に遊びに行くとマッサージをしてあげている。その中で東洋のツボという概念を用いたマッサージを教わっており、特に肩こり相手なら自信があった。
 最近年寄り臭いスペインの為に覚えたスポーツマッサージで背中の筋肉をほぐし、日本に教わったツボを押しながら血流増加を目指す。肩から首へ指は流れ、確認をとってから頭皮マッサージまでもした。
「あ、そうだ」
 体を温めた女性がマッサージを終えまったりしている隙に、持っていた鞄から頭痛薬を取り出す。念のため飲ませておこう。だいぶ楽になったと微笑み体を起こす女性に水と共に渡すと、何事か思い出したように顔を上げた。
「あの人達、南の人やった」
 その声にロマーノと近くに居た見張りの兵は顔を見合わす。ここでいう「南の人」とは、この部隊の敵対勢力。明日戦いを挑む相手だ。
「ほんまか?」
 確認の声に女性は頷く。痛みが解れたのかスッキリした頭で出会った場所まで思い出し、女性は奴らがどんな武器を持っていたのかも詳しく話し出した。
「そんな近くに……!」
「れっ連絡、連絡してくるわ!」
 商団が賊に出会った場所はこの村の近く。予定では森を突っ切って向こうで戦う作戦なので、下手すれば本隊を迂回され奴らが直接こっちへ来る可能性がある。
 慌てて上へ連絡をしに出て行く兵を見送り、ロマーノはアントーニョを起こす為に寝所へ走った。