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【腐】君を探す旅・3(完)【西ロマ】

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「へぇ、お兄さんイタリア出身なん? 俺らもぜひご相伴にあずかりたいもんやね」
「ええけど、雪結構いるし、他の材料も必要やで?」
「うちの荷物にあるもんなら、つこうてええよ」
 妻の恩人やしまけといたるわと笑う男の好意に甘え、一通り手当を終えたロマーノは積荷から残っている果物やベリーを貰う。一応極秘扱いなので全部一人で作らなければならないのは辛かったが、近くに置いた薔薇が白くなるのに背を押されひたすら手を動かした。
 中央に密かに色が残るのみとなった薔薇を握り、日を跨いだ頃とりあえずの量を作り終える。ふらふらになったロマーノが台所を出ると、丁度勝利を収めた部隊が帰ってきた所だった。
「アントーニョは?」
 慌てて走り子供を探す。大人たちの間で埋もれていた少年を見つけると、ロマーノは大きく手を振った。
「……おかえり」
 こちらに気づいたとたん、泣きながら走り寄る子供を抱きしめる。腕の中の暖かい体温は、不安も疲れも吹き飛ばす安堵感を与えてくれた。

 帰ってきた部隊の治療に駆り出されつつ、作り上げたジェラードを振舞う。初めて見る氷菓に驚きながらも皆は受け入れ、戦いの疲れを甘いもので癒していった。感嘆の声を上げる商団の者、取り合いになる兵達から離れた所でロマーノはぐったりと横たわる。流石にぶっ通しで働くのは辛かった。
「これ美味しいなぁ、ロヴィ!」
 スプーンを持ったまま、満面の笑みでアントーニョがこちらを振り向く。桃とベリーのジェラードを食べ終え、名残惜しそうに皿を覗く姿が愛らしい。ああ、作って良かったなぁとしみじみしていると、急に体に異変が起きた。
 どこかへ引きずられるような、足元が崩れそうな予感。
(この感覚……ついに、か)
 連想されるのは、ここへ放り込まれた時のこと。あれと同じような感覚がロマーノの身を包み始める。疲れている体を何とか起こし、傍に放り投げていた鞄を肩にかけた。
「ロヴィ?」
 ふらふらと人気のない場所へ歩いていくロマーノの後ろを、アントーニョがぴょこぴょことついてくる。寝るならあっちやでという言葉に苦笑し、ロマーノは膝をついて薔薇を取り出した。完全に真っ白になった薔薇は、手の中で砂のように崩れていく。
「お別れだ、アントーニョ」
「……ロヴィ」
「今までありがとな、結構楽しかったぜ。あ、部隊の皆には刺客を恐れて逃げたってことにしといてくれ」
 一応国家機密の氷菓だからと疲れた顔で精一杯笑うが、視線を合わせた子供の目に涙が溢れてきた。何度も見た涙に、胸が苦しくなってくる。
 あいつはこんなに泣く男だったんだ。でも、スペインはそんな顔をロマーノに見せていない。それは自分が甘えるに、頼るに値しない男だったからなのだろう。
(頼ってばかりしゃダメだな。依存してちゃ)
 この時代のスペインに頼られて、気付く幸せ。今まで受けていた愛情を、返したいという想い。憎しみに変化した恋愛とは違うところで感じるそれは暖かく、家族愛となってロマーノの胸を埋め尽くしていく。
「泣くなよ、ピアニョーネ(泣き虫坊主)」
「いやや、消えんといて!」
 服を掴み泣きじゃくる子供を抱きしめ、昔自分がされていたように背中を撫でる。自分を呼ぶ力は後ろ髪を引いていたが、何とかぐっと堪えた。
「また会えるさ。俺は『イタリア』だから」
 この時代に既に自分は居る。あと百年もすれば会える。
 だから悲しむことなどないのだ。
「ロヴィに……会える?」
 涙をぼろぼろと零し、アントーニョが縋るような瞳を向ける。その顔がぼやけて見えるのは、自分の声が響いて聞こえるのは、こちらも泣いているからだろうか?
「ああ。地中海を見ながら待っていてやるぞコノヤロー」
 見えない視界の中、子供の頬の位置を手で確認する。
「愛しているよ、アントーニョ」
 するりと心からの言葉が溢れる。目の前の子供に向けて、そして未来の男に向けての言葉。
 確かに触れたはずの唇は、何の感触も返さなかった。