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【C83】新刊サンプル「別れの雨」【腐・西ロマ】

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「お行儀が悪いですよ、スペイン。きちんと玄関からお入りなさい」
 窓の鍵を外し明かりの灯った部屋に入ると同時に、厳しい声が奥から飛んでくる。ロマーノは反射的に首を竦めるが、当のスペインは笑いながら謝っていた。
「こんな夜更けに、今度は何ですか」
 広い部屋に居るのは、優雅な仕草でお茶を飲んでいる眼鏡の男。ゆったりとソファに座ったまま、こちらを厳しく睨んでいる。どうやらこの男は屋敷の主らしい。
「ちょお、借り返して貰おって思てな」
 両腕に子供を抱えたままの姿で、スペインは部屋の中へ歩いて行く。主人に呼ばれ慌てて現れた使用人に眠り続けるヴェネチアーノを渡し、二人は主人に促されるまま向かいのソファに座った。
「んじゃ、紹介するわ。こっちはオーストリア。この屋敷の主で、この町というか国のお偉いさんやね」
 出されたお茶を受け取り、スペインがお茶菓子をロマーノに渡しながら紹介する。この男がツテかと頷き、確かにお貴族様なら慈善事業として孤児院に寄付をしていそうだとロマーノは納得した。
(少なくとも、雨に濡れたままで眠らずには済むな)
 使用人達に柔らかそうなタオルで包まれ寝室に運ばれた弟を思い出し、胸の中で安堵の息を漏らす。ついでにここでお腹いっぱい食事が貰えればいい。貴族の体裁を考えればお粗末な食事は出て来ないだろう。
「んで、こっちはロマーノ。今日俺が拾った子で、……前話したやん? この子丁度ええから、育てよって思ってるんよ」
 ぐいっとスペインはロマーノの肩を抱き、傍に引き寄せる。その姿を呆れるように眺め、オーストリアはロマーノを哀れみの瞳で見つめた。
「で、ここからが本題な。オーストリア、お前ん所の孤児院でロマーノの弟の面倒見たって。それであの日の貸し借りチャラや」
「面倒、ですか。……まぁいいでしょう。借りは返しますよ」
 以前政敵に狙われた彼を助けた話をするスペインの横で、ロマーノはお菓子を頬張る。一個目を食べ終えた所で胃が動き出したのか、大きな腹の音を部屋に響かせた。
 思い返せば、今日は一日何も食べていなかった。慌てて腹の虫を黙らせようと、出された紅茶を手に取る。眉間に皺を寄せる目の前の男が恐ろしく、思わず背筋を伸ばして頂いた。
 水分でも溜まったのが効いたのか、音は直ぐに鳴り止む。それに笑ったスペインは使用人に何か食事を頼んで来ると主人を無視して部屋を出て行き、後に残ったのは雨に濡れたままの子供と厳しく目を光らせる男だけ。気まずい空気が流れるが、男は一度溜息をつくとお茶のお代わりを淹れてくれた。
「名前を伺いましょうか」
 勧められるままもう一つお菓子に手を出すと、オーストリアが質問してくる。先程スペインが紹介した筈だと首を傾げれば、「フルネームを聞いているのですよ」と怒られた。
「どうやら一応きちんとした躾を受けているようですからね。服も汚いですが元はいいもののようですし」
 お茶を飲む行儀や服の素材を見ていたと話す姿に、ロマーノはお菓子をごくりと飲み込む。これは誤魔化せ無い。
「……『イタリア』=ロマーノ」
 扉をちらりと確認し、観念して家名を告げる。偉大な祖父の名は絶大で、オーストリアは片眉を上げて反応した。簡単に家を追い出された経過を話すと、呆れたような憤ったような息を吐かれる。やがてお茶を口にし少し落ち着いた所で、彼は「弟のことは任せなさい」と約束してくれた。
「時折屋敷に呼んで様子も見ておきましょう」
 厳しい男かと思いきや、どうやら以外と情があるらしい。子供に甘いのか汚い大人が嫌いなのか。どちらにしてもありがたいことなので、ロマーノは深々と頭を下げた。
「命は大切になさい」
 急に変わった話に、ぽかんとした顔を上げる。ロマーノの顔を真剣に見つめ、オーストリアは忠告した。