白の祓魔師
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カミーユは祓魔師の資格を取った後、このイタリアのシチリアに居を構えて仕事をしていた。
シチリアはマフィアの巣窟とも言われていた時代があったが、現在は風光明媚な観光地と化していた。
が、光が集まる所には影も集まる。祓魔の仕事は意外と多いのだ。
カミーユは忙しい祓魔の仕事の傍ら、地域の子供たちに空手を教え、地元に馴染んでいる。そんな中で、アムロの機乗した飛行機の墜落の報を聞いて駆けつけてきてくれたのだ。
その事に感謝しなくてはいけないのだと頭の片隅で思っているのだが、自分の存在があの機体に同乗していた人達の命を儚くしてしまったのだと思うと申し訳なくて泣けてくる。
それに、助けようとした思いを無視して、自分だけを助け出したシャアに対する怒りと不信感も沸々とわきあがってくる。
とりあえず湯に浸かって長旅の疲れを取れと進められたバスの中で、アムロは一向に纏まらない思考のループに入り込んでいた。
その為、あり得ないほどの長湯をしてしまったらしい。
何時まで経っても出てこないアムロを心配して様子を見に来たカミーユは、浴槽の縁に上半身を預けるようにして意識を無くした姿を発見して驚愕した。
「大丈夫か?」
目覚めてぼんやりと見慣れない天井を見つめていると、傍らからそっと声がかけられた。安心させなきゃと思って頷いたが、その拍子に涙が零れ落ちた。
「いったい何があったんだ? アムロがそこまで落ち込んでるのを、俺は初めて目にするんだけど・・・。俺でよければ話してみてろよ」
優しい声は、今まで隠し続けていた事柄を溢れさせるのに充分な威力を持っていた。
アムロは初めて他人に、10歳の時からの信じられない出来事のあれこれを、シャアの真名を告げずにポツリポツリと話した。カミーユは会話を止めさせる事なく全て聞き、アムロが話し終えるとゆっくりとアムロの頭を撫でてくれた。
「そうか・・・。あの猫は、使い魔ではなく悪魔そのものの仮の姿だったと言う事か」
「僕は、悪魔憑き・・・なんです。聖人だなんて崇めてもらえる立場じゃ」
「いや! アムロは聖人だよ。10の年から今日まであの悪魔が君に悪さを仕掛けていないんだから・・・。知ってると思うけど、悪魔って奴は享楽的だ。自分のしたいようにしか行動しない。その悪魔が、しかも上級の地位にある者が、己の欲望を果たさずに君を守ってきたと言う事は驚異に値する。それ程に、君は清い存在なんだ」
「でも!」
「それに、あの悪魔は君の望みを少しでも果たそうとしたと思うよ」
「うそ・・・だ」
「嘘じゃない。君が気を失っている間に墜落の情報をメディア以外からも入手したんだけど、当初の墜落予想地点はこのイタリアの沿岸都市だったんだ。けど、途中から蛇行や上昇下降を繰り返して、大西洋上に墜落したらしい。海上だったのが幸いして乗組員や乗客に生存者が多い。墜落と言うより不時着に近かったそうだよ。これは君の悪魔がベルゼブブの魔力を邪魔してくれたからじゃないかな。おれはそう思う」
「そ・・・そんな事・・・・・・」
「今度現れたら聞いたらいい。あいつは君の声を無視する事など出来ないだろうから・・・。それより、今は君の身が心配だよ」
「僕の?」
「そうだ。すっかり疲れ果てた表情している。そんな成りじゃ、明日のバチカンの召喚に耐えられないぜ。とにかく今夜はここでぐっすりと寝るんだ」
カミーユの大きな手がアムロの頭を撫でてくる。
その手の優しさに癒されて、アムロはフワフワと夢路に降りていった。
頬に一筋の涙を零して