白の祓魔師
「俺も! 何度も! 言ってるよな。祓魔師として、お前に身体を
差し出すわけには行かないと」
もう数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの話題に、いい加減決着をつけたい。そう思った俺は、頭ひとつ分上にある悩殺物の美貌を睨みつけながら、決定打を口にした。
「俺は! 絶対に! 身体を乗っ取られるわけにはいかないんだ!」
「乗っ取る? 我はそんな事を言ってはいないが?」
「はぁ? 何ふざけた事言ってるんだよ。出会った時から身体が欲しいって言ってただろう?」
俺が首を傾げながらそう言うと、目の前の悪魔がガックリと肩を落としたのが判った。
「はぁぁぁ〜〜」
「なっ、なんだ?なに脱力してる?」
「白の聖祓魔師(エクソルチスタ)、アムロ・レイ」
めったに口にされることの無い正式名称に驚いた俺は、真正面から見つめてくる悪魔と対峙した。
珍しく、悪魔の表情にふざけたものが無かったが故に、俺の背中に冷や汗が流れた。
「何!?」
「我が求めているのは、確かにそなたの肉体だ」
「だから!」
「だが、それは乗っ取ると言う事ではない」
「じゃあ、何だってい・・・」
「こういう事だ」
俺の言葉を遮った悪魔がいきなり俺の身体を抱き込むと、話しかけで開いていた口内に、熱くぬめる物を滑り込ませてきた。
「!!・・・・・・・んっ!・・・・・・んんっ!!」
逃げる舌を追いかけて来る物は信じられないほど長く、器用に蠕いて俺のそれを絡み取った。そして、引っこ抜かれるかと思う力で悪魔の口内へと引きずり込まれて甘噛みされる。
あまりの激しさに俺の息は止まり、延々と続く侵略に身体から力が抜けていった。
ガクンッと膝が身体を支える事を放棄したが、足の間に差し込まれた悪魔の腿によって地面との激突は遮られた。
口内への陵辱がどれだけの時間だったのかはわからない。
ようやく接触が絶たれた時には、俺の身体は押し寄せる快感に小さく震え、頭は飽和状態になっていた。
その考える事を放棄しかけた頭に、甘く誘う悪魔の声が響いた。
「我の望みは、そなたを我の下で身も世もなく喘がせ、啼かせ、悶えさせ、ひとつに繋がる事。そなたの中は、きっとこの世のものとも思えぬほどに快いだろう。
迷う事はない、アムロ。さぁ、その身を我に差し出せ。
さすればそなたの退魔の力はどのような魔でも敵わぬ程になろう。祓魔師として悪い事ではなかろう?」
俺の口角から溢れた唾液を舌で拭いながら、不気味なほどに優しい手が神官服にかかり、襟元のとめ具を外していく。
ぼんやりとしていた俺は、肌が外気に晒された事で急速に意識を取り戻した。
「よ・・・せっ!」
隙間から差し込まれた冷たい手掌が俺の胸の尖りを弄(まさぐ)りだしていた。
「やめろっ!」
俺は渾身の力でその手から逃れた。
同時に奴の手掌に俺の体内から強烈な光の矢が放たれた。
「つっ!」
「俺の同意も無しに事に及ぶな!! 貴様を魔界へ強制的に送還するぞ!」
俺は乱れた呼吸越しにそう恫喝した。
アスタロトは傷付けられた手掌を押さえつつ、微苦笑を投げかけてきた。
「では、同意が得られれば構わぬのだな、アムロ」
「未来永劫、そんな機会は無いと思え!」
「人の心は移ろいやすい。いつかきっと、そなたを我がものとしてみせる。・・・その身に宿るミカエルの欠片と共に」
終わり間近の言葉は聞き取れなかったが、俺は毅然と反発した。
「どんな事があっても、俺は貴様の力は借りない。覚えておけ。魔界公爵アスタロト!」
「シャア、だ」
「煩い、シャア! それと、俺の側にいるつもりならその姿は止めろ。目立ちすぎて迷惑だ」
「何を今更。先ほどから多くの人の目に晒されているというに」
告げられた言葉に驚き周囲を見回すと、周りに佇む人々の視線が身体に痛いほど注がれていた。
「なっ!!」
「心配せずとも話の内容は奴らの耳には届いてはおらんよ」
「そっ・・・なっ・・・こっ!?いっ・・・いつから・・・・・・」
「さて、な。だが、我とそなたの熱いベーゼだけはしっかりと焼き付いただろうがな。愛しているよ、白の聖祓魔師(エクソルチスタ)殿」
飄々と告げられた言葉に俺は全身から火を噴きそうになり、目の前の悪魔の腹に渾身の一撃を加えると、教会へと猛ダッシュしたのだった。
足元を軽い足音がついてくる事など耳にも入らずに
2011/09/07