白の祓魔師
聖別
アムロが17になった年のクリスマスを前にして、バチカンから召喚状が届られた。
「また見世物扱いかナァ」
白い書面に金色の装飾が施された召喚状を手に、アムロの口が愚痴を吐いた。
「行きたくなければ行かねばよい」
「そういうわけにはいかない・・・って! 何だって居るんだよ! さっきまで居なかっただろ?!」
「愛しい想い人を独りにしておくのが不安でな。公爵業を早々に片付けてきたと言うわけだ」
「戯言は聞きたくない。それに、僕は祓魔師だから、召喚状を無視するわけにはいかないんだ。にしても、クリスマス前で教会の方も忙しいってのに、何だって言うんだ」
アムロはぶつぶつと不平を漏らしつつも渡航の準備を始めた。とは言え、男の一人旅だ。持ち物などたかが知れている。
ディパック一つに着替えやパスポートなどを詰め込むと、
アムロはブライトの部屋の扉を叩いた。
「どうした? アムロ。何だ? そのバッグは」
クリスマスのミサの準備やら訪れた信者へのちょっとしたプレゼントの作成をしていたらしいブライトは、髪がぼさぼさの状態で扉を開けてきた。目の下に薄っすらと隈もある、
「これ・・・来ちゃったんで・・・。忙しい時に申し訳ありません」
アムロは召喚状をぴらぴらさせながら、不満たらたらの表情で理由を明らかにした。
「バチカンからの召喚じゃしょうがないだろ。お前こそこんな時期に大変だな。気を付けて行って来いよ。ああ。そいつも連れて行くのか?」
苦笑いしつつ了解してくれたブライトが足元に視線を向けながら質問してきて、アムロは何だ?と視線を下げる。
と、そこには金色の長毛種の猫がお座り体勢でアムロを見上げていた。
「なっ!!」
「使い魔なんだから、当然連れて行くんだろ?」
「ちっ! 違います!! こいつは使い魔なんかじゃ!!」
ミギャウ!!
いきなり上がった雄叫びに二人は飛び上がり、視線を猫へと向けた。猫の両手が押さえつけているのは黒い蛆虫。
「「マゴット!!」」
二人は瞬時に聖水を浴びせようとしたが、それを待たずして猫が蛆虫を霧散させる。
「教会の敷地内にまで入り込んでくるだなんて」
「敷地の結界が弱まっているか。クリスマスの準備で修復が疎かになっていたのかも知れんな。ミサを前に敷地の結界を高め直すか」
「じゃあ僕も」
「お前は出立しないといけないだろ? 遅れると、うるさ方が難癖付けてくるからな。聖職者って言ったって俗物も居るだろ? 情けない事にさ」
「・・・・・・ですね。・・・・・・・・・じゃ、用事が済み次第、大至急で帰ってきますから」
「気を付けて行って来いよ」
ブライトがアムロの肩を気軽に叩き、背中を押してくれる。その暖かくも力強い優しさに促され、アムロは空港へと足を踏み出した。