佐藤君、勤労に感謝する。
(おい、ちょっと待て…。)
佐藤は二日酔いでずきずきする頭を必死にめぐらせた。
確か、昨日はバイトの帰りに相馬に誘われて
近くの居酒屋に行った。
少しだけ飲むつもりだったが、
その日は轟に店長ののろけ話ばかり聞かされて
ストレスがたまっていたらしく
つい飲みすぎてしまった。
相馬は意外なくらい酒に強い。
「お兄さん、生ちゅー追加~。あとウーロンハイと焼酎お湯割りも。
佐藤くんは?」
問われた佐藤の酒量はもう限界に近かった。
「オレは、もういい。
おい、今日、これワリカンなのか?」
佐藤は相馬の前にずらっと並んだ殻のグラスを見ながら
ぐらぐらする頭を抱えた。
「まさかぁ。佐藤くん、今日はオゴるよ。給料日だからね。」
相馬は佐藤の前でにっこり微笑んだ。
(給料日はオレも同じだけどな…。)
佐藤はぼーっとする頭で考えた。
「さあ、もっと飲んで飲んで。イヤなことはぱーっと忘れちゃって。」
「別にイヤなことなんかねーよ。」
「そうだよね。今日は轟さんともたくさん話してたしね
…って、
佐藤くん、ビール瓶振り上げないで!
わあ、そんなもんで殴られたら死ぬ、オレ死ぬ!」
佐藤はビール瓶を下ろした。
「轟の話はするな。」
佐藤はぼそぼそと言った。
急に隣のグループの談笑が大音量になり、佐藤の声を掻き消した。
相馬は耳を佐藤の方に向けて叫んだ。
「えー?何ー?佐藤くん、何だってー?」
「轟の話はするな。」
「えー何ー?聞こえないー。」
「轟の話はするな!!」
何故か一瞬だけ静まり返った店内に佐藤の声が響いた。
「…佐藤くん。そんな大きな声で言わなくても。
恥ずかしいよ。」
相馬が言った。
佐藤はさらに頭を抱えた。
作品名:佐藤君、勤労に感謝する。 作家名:pami