佐藤君、勤労に感謝する。
(そこから先はどうしたっけ。)
思い出せない。
佐藤は必死に記憶をたどった。
「…さと…くん、佐藤くん。」
相馬の声が遠くで聞こえる。
「佐藤くん、あーあ、酔っ払っちゃったね。」
穏やかな、困ったような声。
自分より小柄な細い肩に腕を回して、
必死で足を前に出す。
「ほら、こんなところで寝ちゃダメだよ。まだ玄関だよ。」
段差につまづいた。
いつもの慣れた家の匂い。
自分のアパートの部屋らしい。
気持ちが悪い。
早く横になりたい。
「わっ、佐藤くん。土足、土足。
はい、靴、脱いでー。」
気持ちが悪い。吐きそう。
やばい、意識がなくなったらこのまま
死ぬかもしれない。
「しっかり自分の足で立って。
わぁ、重いよ、佐藤くん。」
このままじゃ死ぬ。苦しい…。
助けろ、相馬。
「わっ、倒れ…っ。」
相馬にしがみついたまま、ベッドに倒れこむ。
彼が下敷きになりクッションになったせいで痛くない。
「オレは痛いよ…。ていうか、重いよ、佐藤くん。」
下になった相馬が苦しそうに声を上げた。
もぞもぞ動くな、気持ち悪い。
死ぬ…。
「大丈夫だよ。このくらいじゃ死なないよ。」
そんなことはない。
急性アルコール中毒というのがあるじゃないか…。
「んー?大丈夫なんじゃない?
佐藤くん、今日あまり飲んでないし。」
そりゃ、オマエの酒量と比べたら…。
「でもいっつも佐藤くん、もっと飲めるじゃん。
きっとこのくらいじゃ死なないよ。」
そんな、何の根拠もない、いい加減な…。
「それとも…一緒に死ぬ?」
はあ?
何を言ってるんだ、相馬。
背中に回った相馬の手に、心なしか
力がこもった。…ような気がした。
「このまま、抱き合ったまま、一緒に…。」
耳元で、いい声で囁かれてぞくりとする。
「天国に行こーよ。佐藤くん。」
作品名:佐藤君、勤労に感謝する。 作家名:pami