佐藤君、勤労に感謝する。
「それで、店長がね、私にね、佐藤君。」
その日、店のチーフの轟八千代は相変わらずだった。
厨房内で、キャベツをきざむ佐藤の横で、
いつものように轟はひたすら店長の話を続けていた。
佐藤は轟に恋心を抱いていたので、
そんな轟の話に内心、日々傷ついていた。
しかし今日ばかりは、佐藤は上の空だった。
「轟さん、シーザー・サラダ二つ、1番と3番に。」
厨房の奥から相馬が顔を出した。
「あっ、ごめんなさい相馬くん。行って来るわね。」
現われた相馬に佐藤は、内心の動揺を抑え、
平静を装いながらキャベツをきざみ続ける。
「あ、轟。」
佐藤はサラダ皿を2枚抱えてホールに戻ろうとする彼女を呼び止めた。
「ちょっと待て。」
「なあに、佐藤君?」
彼女が出て行くと、狭い厨房で、相馬と二人きりになってしまう。
佐藤はあわてたが、彼女を引き止める言い訳も思いつかない。
「いや…。」
「じゃあね、佐藤君、また後でね。」
言葉を濁した佐藤を置いて轟は仕事に戻っていった。
そんな佐藤の横に相馬は身を寄せ、
佐藤の手元を覗き込んだ。
「佐藤君、キャベツがみじん切りになってるよ。」
「そうか。」
相馬に真横に立たれて、佐藤は硬直した。
作品名:佐藤君、勤労に感謝する。 作家名:pami