こらぼでほすと 解除1
「ほうれん草は、長ける前に食べてくださいね? 」
「サルに言え。俺の管轄じゃねぇ。」
家庭菜園には冬物の野菜が植わっている。ほうれん草は、適度に摘み取って食べないと硬くなる。それに白菜は放置すると花が咲く。そこいらのメモも作っておく。
「クリスマスまでには帰れるみたいだから、それからは好きなものを用意するんで、それで勘弁してください。」
「くくくく・・・別に、それはかまわんぞ? 来年からは梅雨時も、こき使えるってことだからな。」
亭主に、そう言われて、女房も気付く。来年からは季節の変わり目だとか梅雨にダウンすることはなくなるのだ。
「年がら年中、俺と一緒でいいんですか? あんた。」
「一緒が楽だ。おまえ、復帰はさせてもらえないんだろ? 諦めて、フルタイム俺の女房でいろ。」
「・・・・そうでしたね。」
刹那から、絶対に復帰はさせない、と、言い切られてしまった。あの調子だと、組織にこっそり復帰すると連絡しても阻止されてしまうだろう。
「最悪、相撃ちでもいい、とか考えるヤツなんて危なくて実戦で使えるか。・・・次に逃げを打ったら、えらいことになるからな。黒ちびも用心してんだろうさ。」
亭主の指摘に、心当たりが山ほどある女房も苦笑して頷く。帰る場所として存在してくれ、と、黒猫はねだった。一緒に戦う相棒は、黒猫の女房が勤める。ロックオン・ストラトスは一人で充分だ。そちらのことは、ニールには関わらせたくないのだろう。
「わかっちゃいるけど、ちょっと寂しいんですよ。俺としては、何かしら、あいつらの役に立つことがしてやりたいと思ってたから。」
「役には立ってるだろ? そもそも、おまえは、うちに嫁入りしたんだろうが? 亭主を放置できると思うな。」
「でも、刹那たちのほうが優先とは言いましたが? 」
「けっっ、拒否くらったんだから、大人しく、うちにいろ。今夜のおかずに、おからを入れろ。具沢山のヤツだ。」
「はいはい。でも、あんたが悟空のことで本山に行く時は、俺も、あっちに帰りますからね。」
「帰れると思うか? 」
「でも、俺、一人になるのに? 」
亭主は、けっっと舌打ちして、ハリセンで女房の頭を叩く。一人になんぞ、絶対になれないことが理解できていないらしい。
「お里があって、年少組がいて、ついでに暗黒妖怪もいるだろ? 俺が消えたら、あいつら、嬉々としておまえを連れて行くはずだ。」
「・・・う・・・」
「黒ちびが拒否しちまえば、組織への復帰なんて不可能だろうし、たぶん、キラたちも阻止するぞ。・・・・それに、今のところ、俺は動くつもりはねぇ。」
「つまり、あんたが俺を独占したいってことですか? 」
「当たり前だ。ちょろちょろと数日、留守するぐらいは許してやるが、それ以外は寺にいろ。」
なんていうか、熱烈な愛の告白じみているのだが、当人たちには、そういう気持ちが一切ないので、ここで女房も頬を赤らめたりしない。あはははは・・・と、朗らかに笑っているぐらいのことになる。
「まあ、俺もあんたといるのが気楽でいいですよ。・・・ありがとうございます、三蔵さん。たぶん、あんたのお陰も多分にあって、ここまで辿り着きました。」
「わかってんなら、奉仕で返せ。」
「背中でも流しましょうか? 身体はいらないでしょ? 」
「どっちもお断りだ。普通に世話だけしてくれ。」
「わかりました。じゃあ、スーパーまで行って来ます。」
「昼は外で食おう。たまには、おまえの料理じゃねぇーもんがいい。」
「おや、デートですか? 奢りますよ。スーパーの近くに、おいしいカフェがあるんです。」
「いいだろう。」
女房一人で外出させるのも心配だから、亭主が付き合うということなのだが、素直じゃない亭主なので、こんなことを言う。で、女房のほうも、それがわかっているから、笑いつつ立ち上がる。
「おからの具沢山って、ちくわとニンジンとシイタケと他は? 」
「ネギとゴボウは外せねぇーな。肉を入れても出汁が出るぞ? 」
「なるほど。魚卵とかでもいいんですよね? そこいらは、スーパーにあるもんで考えますか。」
「味噌漬けの魚を焼いてくれ。」
「ん? マヨ焼きじゃなくて? 」
「マヨ焼きは、明日の昼だな。」
ふたりして、たわいもないことを話しながら玄関を出る。すっかり、この関係も板についた。どっちも気楽な同居人だが、傍目には、益々仲睦まじい夫夫にしか見えなくなっている。
夕方に、シンとレイが帰って来た。アカデミーのほうも、なんとか追いつけたので、バイトも少し始めている。明日から留守にするという話をしたら、うんうんと頷きつつ、軽いおやつを頬張っている。
「キラさんから聞いてるよ、ねーさん。」
「なんにせよ、俺は嬉しいです。」
二人も、ニコニコしている。さすがに、この間のダウンは肝が冷えた。これで、完治すれば、そういう心配もなくなるから浮かれているらしい。
「いろいろ迷惑かけてすまなかったな? ふたりとも。」
「別に、それはいいさ。俺らより、とーさんのほうが盛り上がってるぜ? なんか快気祝いの宴会するとか言ってた。」
トダカは、キラからの報告に嬉々として、戻って来たら、年末に家族だけで快気祝いをやらないと、と、場所を選んでいるとのことだ。
「ん? 快気祝い? 」
「そっ、病気治ったお祝い。オーヴとか特区では、割とポピュラーなイベントなんだ。せっかくだから、おいしいもんでも食おうってさ。」
「でも、俺が帰るのは年末だけだぞ? 」
「うん、だから年末に、どっかでメシ食うって感じだと思う。」
「家族だけっていうのは難しいんじゃないですか? すでに、アマギさんが場所なんかは探してるみたいですから。」
もちろん、トダカの意向が家族だけの些やかなお祝いであっても、トダカーズラブも参加を捻じ込むつもりで動いている。だから、年末に、どっかでメシを食うという宴会チックなものになるだろうと、レイも説明する。
「そんな大袈裟な・・・。」
「忘年会も兼ねてるんだから派手でいいんだよ。」
「まあ、要は騒ぎたいってことですから。」
名目は、どうであれ、トダカーズラブとしては忘年会の様相を呈している。たまには、集まれるものは全員集まって、トダカと騒ぎたいというところらしい。
「そういうことなら、それでいいけど。」
「後、年明けしたら、オーナーが拉致りに来るんで、ねーさんは移動だ。俺らは、そのまんまとーさんとこでのんびりする。」
「でも、初詣は一緒に行きましょう、ママ。今回は二日です。」
みんな、ニールが完治するというので浮かれている。まあ、長かったとは思う。足掛け五年以上、ニールの体調を心配していたからだ。途中、何度か危険な状態にも陥っていたし、なんだかんだと年少組は世話をしてもらっていたから、すっかりニールが居るのが当たり前になっている。ただ、まあ、体調が良くないことも多かったから、それが解消するとなれば、浮かれるのもしょうがないことだ。
「来年の夏休みにさ。プラントへ行こうぜ? ねーさん。俺らが案内するからさ。レイとも相談してたんだけど、その頃なら体調も落着いてるだろ? 」
「でも、シン。夏は寺の留守番があるぜ? それにお盆も忙しいしなあ。」
作品名:こらぼでほすと 解除1 作家名:篠義