MuV-LuV 一羽の鴉
その規模まで分かればいいが…白銀の様子を見る限りそこまでは分からないようだ。
「すいません…今って何月ですか?」
「ん?4月だが?」
「よ、4月!?え!?」
俺が今日の日付を教えると共に、白銀は突然慌て始める。
なんだ?ここから近い日に何かあると言うのか?
未来をしる人間が慌てる事によって俺も思わず身構えてしまう。
「どういうこと白銀。何かあるの?」
「い、いえ…俺が前回ループした日よりもかなり早い日付にループしているようで…」
…なるほど。だから白銀が知ってる最も近い出来事が今から7ヶ月も先になると言う事か。
だがそれは白銀にとって好都合な話だろう。前回のループで白銀が何をしたのかは分からないが、それを早くに組み込む事が出来るのだから。
それにしても未来の知識、か…白銀がどれだけの時間を体感しているのか分からないが、便利である事には変わりない。
うまくいけば未来の知識が手に入り、未来で足りなかった知識を今の内に補える事が出来る。
白銀には悪いが…中々良い収穫と言えよう。
「…まぁそんな事はどうでもいいでしょ。それよりも白銀が教えてくれた新潟上陸まで日にちが随分と空いているって事よ。それまでコイツの立場をどうするか決めないといけないでしょ?」
確かにそうだ。
今のところ白銀がループを繰り返している、と言う保証はどこにもない。
本音を言えば白銀が見せて涙を信用したいが、コチラも命が掛かっている以上、そう簡単にはいかない。
そしてループを確信に至らせる出来事も今から7ヶ月の後になる。これまでの間白銀をどうするかって事になるが…それは俺が決めうる所ではないだろう。
「シルバ、あんたが決めなさい」
「は?俺がか?」
香月に任せよう、そう思った所で俺が任命されてしまったために思わず反論してしまう。
しかし、香月の鋭い視線を浴びせられ、俺が大人しく白銀をどうするか、決める事にする。
…処分は問題外だ。
未来の情報を持っている可能性のある白銀をおいそれと殺す事は出来ない。
特殊任務部隊に入れる、と言う手もあるにはあるが…それは白銀自身があまり納得しないだろう。
此奴は先程冥夜達、と言っていた。それはつまり今横浜基地にいる訓練兵と仲が良かった、と言う事。ならば此奴は訓練兵の方に振り分けた方がいいだろう。
そこで問題になるのは上官としてか、皆と同じ訓練兵としてか、と言う所なのだが、白銀自身はオリジナルHIVEを制圧したと言っていたので腕っ節は信じてもいいだろう。
だが本人に意思の確認はしておいた方がいい。
「白銀。俺はお前を冥夜達、とかいう訓練兵の上官として任命しようと思うんだが…どうだ?」
「いいんですか!?」
「ああ。香月は俺に任せると言ったしな。別に構わんだろう。それに訓練兵達を知っているお前が上官になればうまく皆を導けるだろう」
香月の方を目でみるが、特に変化はない。
それで構わないという事だろう。
「ありがとうございます!!」
となると白銀の階級だが…流石にそれは俺が任命していいもんじゃない。俺の少佐だって形だけのようなものだ。
「香月。白銀の階級はどうする?」
「んーあんたと同じでいいんじゃない?」
いいんじゃない?って…少佐という階級はそんなに安いもんじゃないだろうに…。
まぁ階級を与える本人がそう言っているんだ。それでいいのだろう。
「なら香月、後の事は頼んだぞ」
俺はそう言うと椅子から腰を上げ、出口の方へと向かう。
この後にも特殊任務部隊の奴らと訓練があるので、俺としてはそちらに向かいたい。
昨日の昼食と言い、今日の昼食と言い、二回もあいつらから逃げるようにして出て行ってしまってるからな。そろそろ何を言われるかわかったもんじゃない。
それに白銀は安全な人間だと分かった。その確証はどこにもないが、そういう事は見れば分かる。
そう思い、部屋を出ていこうと思ったのだが、香月から声を掛けられた。
「白銀も連れてってやんなさい」
その言葉には白銀も驚いた顔をする。
「いいのか?」
「いいも何も、これからの事を整理しないといけないでしょ?あんたに続いてまた変なのが来ちゃったんだから」
変なのという言葉に少しばかり腹が立つが、変なのには違いないので何も言わない。
まぁ香月が良い、と行ったのだから白銀もついでに連れて行くとしよう。此奴とはこれから長い間にもなるだろうからな。
「白銀、行くぞ」
「あ、はい!」
白銀を連れてPXに行くことになった俺は、あいつらに白銀の事を言われた際にどう言い訳をするか考えながら、PXに向かった。
※白銀の設定はオリジナル部分が多いです。三度目のループと言うのもそのためですね。…決して本編の設定を忘れた訳じゃありません(゚∀゚)
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「シルバさん」
PXに伸びる廊下を歩いていると白銀から声を掛けられた。
「ん?なんだ」
一度立ち止まり、白銀の方を振り返る。
後ろを振り返り、俺の視界に写った白銀は何かを言いたそうにしているが、どうやらそれを言おうか言わないか迷っている様子だ。
…そういう事か。
「俺の話が聞きたいのか?」
「ッ…はい」
俺の言葉を聞き、少しばかり肩が跳ね上がる白銀だが、弱々しく首を縦に振った。
俺の世界の話、か。
此方の世界に来てから誰にも話した事はない。社にも、香月にも、だ。
一度も聞かれた事がなかったから。そう言われればそれで終わりだが、誰かに過去の話を聞かれても俺は何も教えなかっただろう。
…だが白銀にはいいかもしれない。
このBETAに侵略された世界を二度も経験し、そして仲間を失っている白銀になら話してもいいだろう。
そう思ってしまっている自分がいる。
「そうだな…簡単にしか話せないが、それで構わないか?」
「大丈夫です」
と言っても俺の全てを教える訳じゃない。
俺が何をしたか、それをかいつまんで話すだけだ。
「俺の世界はな、この世界と違って人間同士が殺し合う世界だった。俺はそこの世界の兵士として戦い、数え切れない程の人間を殺してきた」
ACと言う名の大量殺戮兵器に乗り、命令されるがままに人を殺してきた。
情報を聞き出すために拷問も行ったし、逃げ惑う人々も殺してきた。自分が生き延びるためだけに。
「殺して、殺して、殺して。俺はそうやって生きてきたんだ。他人を蹴落とし、自分がその人間の屍の上にはい登る。いつしか俺の両手は他人の血で染まっていた」
白銀に教えるように言葉を選んでいたが、段々と自分の過去を思い出すかのように口を開いてしまう。
今では考えられないような人生。
人を殺すだけの、暗く淀んだ生き方。
「そうすることでしか生きられない世界が…俺は嫌いだった。そこで俺にある話が回ってきた」
マクシミリアン・テルミドール。
俺を良い意味でも、悪い意味でも変えてくれた人間だ。
テルミドールから誘われたORCA旅団。
作品名:MuV-LuV 一羽の鴉 作家名:コロン