MuV-LuV 一羽の鴉
その目的を聞き、俺は迷わずにORCA旅団へと入団した。
「世界を救わないか、とな。他人を殺す事でしか生きれない世界を嫌っていた俺は迷わずにその話に乗った」
これで人を殺さずに済むなら…そう思い、俺はテルミドールへとついて行った。
「結果、世界を救う名目の計画は俺の手によって成功を収めた。それと同時に、多くの人間は地に堕ちた。そこからは俺にも分からない」
多くの人間が地に堕ちた。そう白銀に言っても分からないとは思うが…それでいいと思っている。
オルタ5の計画内容を知っているであろう白銀には言わない方がいい計画だ。ClosePlanは。
そして言った通り、クレイドルが地に堕ちた後は俺にも分からない。無事に宇宙に行くことができたのか、その技術を生み出す事ができずに、腐った大地で生きるようになったのかは、俺には分からない。
無責任だとは思っている。
自分のために動き、その結果人を大勢殺す事になっているかもしれないのだから。
だが俺はあの選択を後悔してはいない。どの道、あのまま空を飛び続けるのには無理があるのだから。遅かれ早かれ人間は、クレイドルは地に堕ちていた。
それを誰がやるか。その罪を誰が背負うのか、それだけの話だ。
「まぁこんな所だ。人を殺し続けた俺は、世界を救うために人の居場所を全て奪った」
そう。つまりはそう言うことなのだ。
人を殺した俺が、世界を救うと言うふざけた名目を掲げ、人々の居場所を奪ったのだ。
「…」
俺の話を黙って聞いていた白銀は何も言わない。いや、言わないというよりは言えないの方が正しい。
苦虫を磨り潰したかのような苦々しい表情をしており、俺にどう声を掛ければいいか分からないのだろう。
まぁそれも当然の反応だ。
今目の前にいるのは大量の人間を殺した張本人なのだから。
「聞いて後悔したか?」
「…いえ、そうは思ってません」
…流石に二回も世界をループしただけあって精神が強い。
普通の人間なら俺の話を聞いただけで俺の側から離れていくだろうに。
「シルバさんは…何のために戦ってるんですか?」
唐突にそう質問された。
突然の質問に少しばかり硬直してしまうが、その答えは考えずとも答える事が出来る。
「俺を救ってくれた皆を死なせないために、だ。ふざけた理由だろう?」
人を殺してきた俺が人を守るために…など。
自分でも分かっている。この戦う理由がいかにふざけているのかと。
だが、それでも俺は守ると決めた。
「…それを聞いて安心しました」
「どう言う事だ?」
「今のシルバさんは人を殺すために生きてるんじゃない。人を守るために生きてるからですよ」
「…」
少しだけだが…白銀の言葉には救われた気がした。
俺の過去を少しだけだが知った白銀に言われたのだ。尚更その効果はでかい。
「PXにその守りたい人がいるんですよね?行きましょう!」
そう言いながら白銀は俺の先を歩いて行く。
…オリジナルHIVEを制圧した、と言うのも納得したよ。
こいつの人柄は人を惹きつける。だからこそオリジナルHIVEを攻略する事が出来たのだろう。
何となくだが理解する事が出来た。
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ー
「あ!シルバ少佐!どこ行ってたんですか!」
俺と白銀がPXに着くなり俺と一番最初に目があった茜が俺の方へと駆け寄ってきた。
「悪かった。ちょっと用事が出来てな」
用事が出来た、と言う事事態は嘘ではないのでそう言っておく。
まぁ茜達も俺がいなくなるのは何かしろある、と理解してくれているので内心は分かってくれているだろう。…多分。
「もう!シルバ少佐がいなくなって速瀬が暴れ始めたんですからね!」
茜の言葉に嫌な予感を覚えつつ、先程から何やら騒がしい方に視線を向ける。
「うわ…」
思わずそう呟いてしまう程に荒んだ空間が俺の視界には写っていた。
一人暴れまわる速瀬を築地と高原が抑えており、何やら被害を受けたであろう麻倉と柏木が地面に転がっていた。
風間と宗像に限っては完全に他人を装っており、伊隅もいないので速瀬の暴走を止める人間がいない。
故に此処まで速瀬の暴走を許してしまったのだろう。
…そんな速瀬の様子を見てふと約束を思い出す。
今度こそ訓練シミュレーターで一体一の対決をすると。
ああ、それか。
速瀬の暴れている理由が何となく理解でき、どう説得するか考えながらも速瀬達の方へと向かっていく。
「白銀、俺はあいつらの方に…白銀?」
白銀に断りを入れてから行こうと思ったのだが…白銀の様子が少し可笑しい。
少しと言うか…先程香月の部屋で見たように、白銀は涙を静かに流していた。
…そうか。白銀はあいつらとも関わりがあったんだろうな。そしてこの反応。何となくだが、あいつらがどうなったのか分かったよ。
その事について白銀を責めるつもりは一切ないが…嫌なものだな。
「え、あ、すいません。ちょっと…」
俺の視線に気付いた白銀は慌てて頬を濡らした涙を拭き取り、俺の後ろに付いてきた。
「無理するなよ」
「心配かけちゃってすいません。大丈夫です」
そう答えた白銀は確かに先程の目をしておらず、何時も通りの白銀に戻っていた。
強いな。
そう思わずにはいられない白銀の切り替えの速さに驚きもする。
「こら速瀬。此処は暴れる所じゃないだろう?」
「ああぁー!シルバ!約束すっぽかして何処いってたのよー!」
既に少佐も敬語もなくなっている速瀬は自らに纒わりついていた築地達を吹き飛ばし、俺の方へと飛んできた。
「おわ!?」
咄嗟の事に受け止める事が出来ず、足が持たれ速瀬と共にPXの床の上へと倒れ込んでしまった。
その際に後頭部を強打し、鈍い痛みが頭の裏に響く。
「いっつ…」
「「「少佐!?」」」
流石にこうなるとは予測していなかったのだろう、速瀬を除いた特殊任務部隊の奴らが俺の周りに集まってきた。
後ろに控えていた白銀に限っては「いったそ」とか呟いており、俺を助ける気はゼロのようだ。
「あわ、あわわわ!」
真上を見ると速瀬の顔が真近くにあり、その顔は真っ赤に染まっている。
少しでも動けば唇と唇が触れしまいそうな距離だ。
流石にそう言った事に関して鈍い俺でも頬が少しばかり熱くなるのを感じた。
「ば…」
「ば?」
「馬鹿ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然速瀬がそう叫び、俺の頬を平手で強打してきた。
当然受ける事しか出来ない俺の頬にその平手は当たり、乾いた音がPX内に響いた。
速瀬はそのまま俺の上をもの凄い速度でどき、そのままPX内を走って出て行ってしまった。
「「「…」」」
最早何が起きたのか理解できない程に一瞬の出来事だった。
一番理解出来ていないのは俺なんだが…速瀬に叩かれた頬をさすりながらも体を起こす。
あいつ…結構本気で叩きやがったな。
「シ、シルバ少佐。大丈夫ですか?」
作品名:MuV-LuV 一羽の鴉 作家名:コロン