MuV-LuV 一羽の鴉
それを確認したと同時に機体を前進させ、瞬時に反転。白銀機がいるであろう場所に残りの弾丸を打ち込む。
当然白銀機を確認して撃ったわけじゃないので、当たればラッキー程度なのだが、どうやら数発だけ掠ったようだ。
しかもその掠った場所は跳躍ユニット。
本来なら此処でビルの合間に逃げるであろう白銀機はゆっくりと長刀を構え、俺の方へと走り出してきた。
本来ならば真正面から来る白銀機を突撃砲で迎撃したい所だが、既に弾倉は空。コチラも長刀で向かい打つしかないだろう。
…と言っても白銀は此方の弾倉が空になったことを分かっていて突っ込んできているのだがな!
此方も真正面に機体を走らせる。
そして互の長刀が届く、と言った距離になった瞬間に左手に持っていた突撃砲を白銀機に向け投げつける。
当然物が飛んでくるとは思ってもいなかった白銀機はそれを右腕で庇い、その動きを一瞬だけ止める。
だがその一瞬の隙で充分だ。
白銀機に生まれた一瞬の隙を逃さないように長刀を両手に構え、機体を低く沈める。
懐に入られたと理解した白銀は手に持っていた長刀をふり下ろそうとするが、それよりも早く長刀を横に一閃する。
鉄と鉄が擦れ合う音が響き、次に重たい物が地に落ちる音が響いた。
俺の振るった一閃が白銀機の両腕を切り落としたのだ。
普通ならば、そこで戦意喪失し、シミュレーションは終わりになるが、流石の白銀。両腕を失っても尚、その機体を俺にぶつけるようにタックルしてきた。
「ッ!」
当然そのタックルを避ける事のできない俺はモロにくらい、機体を後ろに引かせる事になる。
しかし白銀の最後の反撃は止まらない。
跳躍ユニットを失った白銀は機体を足の力だけで跳躍させ、横にそびえ立っていたビルを蹴り飛ばし、俺の真後ろに着地した。
流石にこの動きには驚かされるが、悠長に驚いている場合でもない。
直ぐ様怯んだ機体を持ち直し、後ろに振り向く。
が、振り向いた瞬間に視界の下の方から何ががものすごい速度で飛び上がってくる。
それを咄嗟の判断で後ろに機体を一歩引かせる事で避ける事に成功。
直ぐ様長刀を縦に振るう。
しかし、それも避けられ、お返しと言わんばかりに回し蹴りが飛んでくる。
戦術機で回し蹴りや膝蹴りとは笑わせてくれるが、それをやってのけるのが白銀だ。今更驚く必要もない…!
白銀機が放った回し蹴りを右肩で受け止めるが、その衝撃で長刀を離してしまう。
だが回し蹴りを放った白銀機は今非常に不安定な状態である。これを逃すわけもない!
先程白銀にやられたタックルを今度は俺から白銀にやり返す。
流石に戦術機のタックルを片足で支えられる訳もなく、白銀機は地面に倒れ込んだ。
そして俺は瞬時に小型ナイフを取り出し、白銀機に覆いかぶさるように俺も倒れこむ。
最早こうなってしまっては勝負もついたようなものだ。
俺が機体を倒れこむと同時に振りかざしたナイフは吸い込まれるかのように白銀機の操縦席に刺さり、それと同時にシミュレーター訓練は終わりを告げる。
「ふぅ…」
シミュレーターが終わり、自然とため息が零れる。
少しばかり驚かされたが…勝てたな。
流石に他の衛子とは異なる動きを見せてくれた。腕を切り落とされても向かってくるとは…あいつの意思の強さが伺える。
それにしてもあのビルを蹴って背後を取られたのには驚くしかなかった。
俺でもあんな動きはしない。
「白銀機の大破を確認。シミュレーター訓練を終わりにします」
涼宮の声が聞こえると同時にシミュレーターの電源が切れる音が聞こえた。
シミュレーターの電源が落ちた事を確認し、シミュレーターから外に体を出す。
「お疲れ様です!」
出た所で皆から労いの言葉をかけられたが、それには片腕を上げるように返事をし、白銀の方へと歩いて行く。
パッと見白銀に悔しそうと言った表情は察せられない。どころか嬉しそうに笑顔を浮かべている。
…負けたのに嬉しいのか?
いまいち白銀の心情が分からないが、取り敢えずは労いの言葉をかけておこう。
「お疲れ様。どうだった?」
「完敗です。まさか負けるなんて思っていませんでした」
言葉ではそう言っているが、実際はそう思っていなかったのだろう。
本当に俺に負けると思っていなかったのならば、今こうして笑顔を浮かべる事はできないはずだ。
「お前の腕も中々だった。この基地の中じゃ俺を除いて一番強いだろうな」
俺、白銀を除き、この基地内で強いのは伊隅だろう。
その次に速瀬、宗像と言った所か。
特殊任務部隊の人間は香月直属の部隊なだけあって皆元々の練度が高い。そこに俺の存在が加わったのだから尚更だ。
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
まぁ…これで白銀の実力は認めなければならないだろう。
特殊任務部隊の奴らが全員負けた事は悔しいが…伊隅、速瀬、宗像の三人はいい所まで追い詰めたのだからもう少し訓練すれば何れは勝てるようにもなるだろう。
いや…俺の目標としては特殊任務部隊全員が白銀に勝てるようにしてもらおうか。
少し訓練のスケジュールを詰めるか…。
そう先の事をつい考えてしまうが、今は訓練を終わりにした方がいいだろう。白銀に限っては連戦だったんだ。多少疲れは残っているだろうしな。
「よし!これでシミュレーター訓練は終わりにする」
「「「ありがとうございました!」」」
「悪いが特殊任務部隊の奴らはここに残ってくれ。少しばかり言っておきたい事がある。白銀は先に戻ってくれてもいいぞ」
これからの訓練についてどうするか、それを皆に伝えようと思ったのだが、俺が残って欲しいと言った瞬間目に見えて皆のテンションが下がった。
大方怒られれるとでも思っているのだろう。
…相手が悪いとはいったのだがな。まぁそう簡単に納得出来る訳もないか。
「いえ…邪魔じゃなければ俺も残らせてもらいます」
「そうか。分かった」
別に白銀が居て問題になる訳じゃないしな。
「さて…お前らは今日白銀に負けた訳だが…実際に白銀と戦ってどうだった?」
俺がそう言うと皆が強かった、とそれぞれ口にする。
素直に敗北を認め、相手の実力を認識出来たのならばいいことだ。
その中で更に、何故自分が負けたのか、相手の動きはどうだったか、などの動きを思いだし、それを吸収してくれれば尚いいのだが。
「実際俺も白銀が此処まで出来るとは思っていなかった。俺自身お前らが負けてショックを受けているしな」
これは事実だ。
今まで皆を死なせないために訓練してきたと言うのに、その結果を壊すかのように皆が負けてしまった。
「そこでだ…次に白銀とやる時には負けないように、各自俺との個人訓練を受けてもらう」
「「「え?」」」
それぞれの悪い所を潰していく。
そうするためには個人訓練が一番効率がいい。
今回こいつらが白銀に勝とうが負けようが個人訓練はやるつもりだったんだ。
作品名:MuV-LuV 一羽の鴉 作家名:コロン