MuV-LuV 一羽の鴉
イレギュラーがもたらす存在
「新型機ねぇー」
「新型機です」
香月の部屋を包み込む重くるしい空気。
最初の言葉で分かると思うが、この空気を作り出したのは他ならない俺である。
昨夜なんとか訓練のスケジュールを作り上げる事の出来た俺はそのまま香月の部屋に向かい、早速新型機について提案した。
流石に時間も遅かったので、また明日来い、と言う事になり、現在こうしている訳だが…。
「あんた私を殺す気?」
香月の言葉が一つ一つ俺に深く突き刺さる。
香月の言う事は最もだ。
ACのML型抗重力装置に追加武装。そして新型機。香月自身の00ユニット。00ユニットの事だけでも大変だと言うのに、俺は更に新型機をよこせと言っているのだ。切れられても可笑しくはない。
「一体どんだけ私に仕事を増やせば気が済むわけ?ねぇ?」
お、おい。ちょっと落ち着け…。
「私だってね、一生懸命頑張ってるのよ?00ユニットの論理にも詰まってきてるし…そこに追い討ちを掛けるかのようにあんたの提案…!どういうつもりよ!」
遂に興奮のメーターが振り切れた香月は机の上に体を乗り出し、机を思いっきり叩いた。
それによって只でさえ散らかっている部屋が更に散らかる。
部屋に一緒にいた社に限っては香月の興奮を無視し、部屋に散乱した資料を黙々と片付けている。
「そ、それは分かっているんだが…撃震の性能じゃあいつらの技量に」
「そんな事私も分かってるわよ!」
み、耳が痛い…。
「大体あんたが全部悪いのよ!私をなんだと思っているわけ!?私が普通の人間なの!分かる!?普通のに・ん・げ・ん!」
や、やばい。香月のストレスが此処まで溜まっているとは…。殺されても可笑しくないかもしれない。
「コーヒーでも飲んで…落ち着いてください」
流石の社でも香月の叫び声は煩かったのか、いつの間にか用意したコーヒーを香月に渡した。
「…私の理解者は社だけよ!」
よっぽど社の気遣いが嬉しかったのか、そのまま社を抱きしめてしまう。
突然抱きしめられた社は特に抵抗する訳でもなく、されるがままになっている。
…だがどことなく社は嫌がっているようにも感じてしまう。
「ったく、あんたにもこんくらいの気遣いがあったらいいのに」
今だに俺に対する愚痴をこぼしながらも、社をゆっくりと離した。
そして社の淹れてくれたコーヒーをゆっくり飲みながらも、少しだけ落ち着いてくれた。
毎度コーヒーを淹れてるのは俺なんだが、とは口が滑っても言えない。
「ほら、これを読んでみなさい」
ようやく落ち着いた香月に渡されたのは数枚の資料。
最早香月自身で説明してくれることは今度一切なさそうだ。
そんな事を思いながらも、資料の方に目を通してみる。
資料の中には一つの計画が描かれていた。
XFJ計画。
どうやら俺の考えと似たり寄ったりで、帝国の人間も撃震の性能にはそろそろ限界があると分かっているらしい。
本来撃震の変わりとなる機体の不知火、吹雪は発展性に深刻な問題を抱えているとの事。
そこで計画されたのがXFJ計画であり、それは米国や外国の技術を流用し、第三世代戦術機、不知火の強化を測る計画らしい。
ふむ…確かにこの計画は今の俺にとっては好都合の計画かもしれない。
実際の所発展性のない不知火や吹雪でも構わないと言えば構わないのだが、それを超える戦術機を用意する事が出来るのならば是非欲しい所だ。
しかし、問題はこの計画に関係のない俺がどうやって不知火の強化型を譲ってもらうか、と言う所にある。
テストパイロットとして行くのも一種の手だ。
だが俺がテストパイロットとして行った所で、不知火の強化型を貰えるかどうか危うい。と言うか一機だけもらっても意味がない。
…特殊任務部隊、欲を言うなら白銀機と白銀が教育する訓練兵のものまで確保したいが…流石に無理があるか。
…どうするべきか。
計画立案者は巌谷榮二中佐、か。一度この人と話をしてみるべきか…。
「香月、この巌谷榮二中佐と言う人と会う事は出来ないのか?」
会う前に色々と用意しないといけないが、まずは会う予定を確保しなければ意味がない。
「出来ない事はないけど…どうするつもり?」
「…まだ決まってない。これから考えるつもりだ」
俺がテストパイロットとして行くのは、やはり却下だ。
もう少し確実性のあるものでないと…。
「まぁいいわ。話は通しておいてあげる」
「助かる。…無理ばっかり言ってすまない」
「ちゃんと気にしてるならいいわよ。あんたは無理ばっか言ってくるけど、その内容は結構有効なのが多いいからね」
中々嬉しい事を言ってくれる。俺の提案が無駄じゃないと香月本人に言われれば素直に嬉しいさ。
さて、余り無駄な時間を過ごしている余裕はなさそうだ。
一刻も早く不知火強化型を手に入れる作戦を練らなければならない。
「それじゃあ俺は暫く部屋に篭る。ありがとう」
香月に礼をしっかりといってから、返事を待たずに部屋を出る。
巌谷榮二中佐。
この人がどのような人間か分からないが…どう話を持ち出すべきか。
このような作戦を立案した以上、かなり頭が切れる人間であることは明白。
そういう事は得意じゃないんだがな…。
まぁこれも新たな機体のためだ。俺が頑張るしかあるまい。
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「ダメだ…どうすればいいのか分からん…」
不知火強化型をどうにかして手に入れようと策を考えているが…中々思いつかない。
思いつかない、と言っても案は幾つか出ている。
その内最も有効作なのは、XFJ計画を、此処、横浜基地で行う事だ。
そうすれば基地内で実力のある俺と白銀は計画に参加出来る確率が一気に上がる。
更に俺の異世界知識に白銀のループ知識を合わせれば、不知火強化型の進歩にも貢献出来る。そこでうまく恩を売る事が出来れば、不知火を手に入れる事もそう難しくはない。
だが、どうやってXFJ計画を横浜基地で行うか、だ。
現在XFJ計画を実行するに当たり、割り振られている場所はユーコン基地と言う所だ。
もしそこでXFJ計画が実行されるものなら、俺の介入出来る隙間がなくなってしまう…それだけはなんとしても阻止しなければならない。
欲を言うなら、此処横浜基地で、それが無理なら日本国内で、そうしてもらいたい所だ。
「しかし、どうやって横浜基地で行うか…」
本来計画を変更してでも、横浜基地で行うだけの価値がある。
そう巌谷 榮二と言う人物に認識してもらえば、俺の計画は一気に進む事が出来る。
どうにか香月の方から巌谷 榮二に話は通してもらえるとのことだが、後は此方の手札次第だろう。
俺と白銀。
此処横浜基地には普通の人間が持ちうるはずのない知識を持っている人間が二人もいるんだ。絞れば出てくる筈だ。
まず俺の知識としては…ACについてか。
…あれ?ACの知識を与えても意味なくないか?
使えない技術を提供される程意味のない事はない。
作品名:MuV-LuV 一羽の鴉 作家名:コロン