MuV-LuV 一羽の鴉
戦術機とACの大きな違いについて述べるならば、やはり機動性にあるだろう。
その機動性を生み出す技術はやはりコジマ粒子と、それを精製するジェネレーターなのだが…ジェネレーターが普及してしまえば、コジマ汚染が広がってしまう。それだけはダメだ。前の世界の二の前になっている。
他ACから取り出せる技術と言えば…やはりクイックブーストやオーバーブーストなのだが…あれはコジマ粒子から成り立つプライマルアーマーがあるからこそ成り立つ技術。
PAがなければ肉体改造を受けていようが機体の中でミンチになっていても可笑しくない。
当たり前だろう?QB、OBの最高速度は音速の3倍~5倍だ。それによって生まれる圧力を生身の人間が耐えれる訳がない。
つまり、ACの技術を提供する事は出来ない。
となると残る希望は白銀か…。
オリジナルHIVEを攻略した以上、何かしろの新技術を知っていても可笑しくないが、その論理をしっていなければ意味がない。
…白銀には失礼かもしれないが、とても新技術の論理を知っているようには見えない。
「どうしたものか」
これでは宝の持ち腐れだ…。
まぁ此処で考えていても仕方がない…白銀に話を通してみよう。
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さて、白銀は何処にいるか。
横浜基地の何処かにいるであろう、白銀を探して一番最初にPXを訪れたのだが…予想以上に早く白銀を見つける事が出来た。
だが、PXに居た白銀は一人ではない。
どこが見覚えのある五人と一緒に居た。
…あれが確か冥夜達、とかいう訓練兵だったか?
俺自身、その本人達と話していないために顔もよく覚えていないが、白銀の様子を見る限りそうなのだろう。
此処に来てあれほど生きている白銀を見るのは始めてだからな。
…本来ならばこのままそっとしておきたいが、此方の事情も事情だ。
「白銀、今いいか?」
「あ、シルバさん。別に構いませんけど、どうしたんですか?」
案外あっけなく白銀から了承をもらえる事が出来たのだが、白銀がシルバ、という俺の名前を発した事により、訓練兵の様子が変わった。
最初はこの人誰だろう?と言う視線を受けていたのだが、俺の名前を聞いた途端、その視線は尊敬と畏怖のものへと変貌する。
「敬礼!」
次の瞬間には眼鏡を掛けた女性が号令を出し、他の訓練兵もその女性の号令を聞き、席を勢いよく立ち上がり敬礼してきた。
突然の事に少し驚いてしまうが、PX内で突然大声をだされれば当然視線が集まる。
「敬礼はしなくていい。自然体でいてくれ」
俺の言葉の意図が分かったのだろう。眼鏡を掛けた女性は、少しばかり頬を染め席についた。それに続くように他の皆も腰を下ろす。
「し、白銀。あんたこの人と知り合いなの?」
本人はこっそりと話しているつもりなのかもしれないが、全部綺麗に筒抜けしている。
「ん?まぁそうだな」
白銀自身も突然慌て始めた訓練兵達に疑問を覚えたのか、少し歯切れが悪い。
…何となくだが、この訓練兵達が慌てる理由は分かっている。
恐らくいつだがにやったHIVEシミュレーター訓練の結果が他の皆に流れてしまったのだろう。
あの日以来、俺を見る視線が少しばかり変わったきがするからな。
大方特殊任務部隊の奴らがPX内で騒いでいたのだろう。
…あの日は何となくHIVEを伊隅と二人で攻略してしまったが、それは歴史を塗り替えるような出来事だったらしい。
簡単に言えば、HIVEシミュレーターを分隊で攻略したのは俺達が始めて、って事だ。それも撃震を使ってだ。
その凄さがイマイチ俺には理解出来なかったが、特殊任務部隊の皆の驚きといい、この訓練兵の驚きといい、やはり相当困難な事だったのか。
「えっと…君達は?」
取り敢えずは名前を聞いておく。
この先白銀と一緒にいることが多いいだろうからな。名前を覚えておいてもいいだろう。
「榊 千鶴訓練兵です!」
他の訓練兵も榊に続いた。
「御剣 冥夜訓練兵です!」
「彩峰 慧訓練兵です!」
「珠瀬 壬姫訓練兵です!」
「鎧衣 美琴訓練兵です!」
皆いい顔をしているな。
このメンバーでオリジナルHIVEを攻略したと言う事か。
…誰が何をするか、分かったもんじゃないな。
少し失礼な事を考えているかもしれないが、仕方がないだろう。俺の目の前にいるのはまだ若い女性なのだから。
若い女性と言ったら特殊任務部隊の奴らも同じになってしまうが。
「自己紹介はいらないかもしれないが…一応な。シルバ少佐だ。これから関わる事もあるかもしれないからな、宜しく頼む」
「「「よ、宜しくお願いします!」」」
只の自己紹介に過ぎないと言うのに…こうも緊張されてしまっては、此方も変な緊張感を持ってしまう。
おっと…今はこんな事をしている場合じゃなかったな。
「それじゃあ白銀を借りてもいいか?」
「どうぞ!」
榊の一瞬の迷いもない返答に白銀は心なしか悲しそうだ。
別に悪い意味ではないと思うが…。
まぁその事について話してたらまた時間を食ってしまいそうだ。
「それじゃあ白銀、付いてきてくれ」
「はい」
さて…これで白銀がいい話を持ってきてくれればいいが。
もし白銀もXFJ計画に貢献出来るような話を持っていなかったら、不知火は諦めるしかないだろう。
今は白銀を信じようか…。
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「新しい技術ですか?」
「ああ、何かないか?」
場所をPXから移し、誰からも聞かれる事がないように俺の部屋に移動している。
これで白銀にもいい案がない場合は八方塞がりになってしまうのだが…。
「ありますよ。XM3っていうOSです」
その白銀の言葉を聞いて強張っていた体の力が一気に抜けたのが自分でも分かった。
だが安心するのはまだ早い。
そのXM3というOSが使えなければ意味がない。
「今日か明日辺りにでも夕呼先生に話を通そうとは思ってたんですが…一つだけ問題があるんです」
「…何だ?」
「このXM3ってのは俺が考えたOSなんですが…オルタネイティブ4で使われる高性能CPUとセットのものなんです。俺がこのXM3を考えたのはオルタネイティブ4が完成に近かった時なんです…つまりこの時期にXM3を作れるかどうかまでは…」
現実はそう甘くない、か…。
オルタネイティブ4に関しては完全に香月に任せてある。俺でも計画がどこまで進んでいるか分からない。
もしかしたら俺が持ち込んだACの技術によって大幅に計画が進んでいるかもしれないが、それもどうだか分からない。
最後は結局香月、か。
「XM3そのものは、自分で言うのも可笑しいかもしれませんが、かなりの出来だと思います。前線に出てる衛子の生存率が大きく上がる、って言われてるくらいでしたから」
XM3自体の性能に関しては疑う必要はない、と言う事か。
衛子の生存率が上がるのは今日本にとって最も必要な事だ。
作品名:MuV-LuV 一羽の鴉 作家名:コロン