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MuV-LuV 一羽の鴉

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 XFJ計画とも充分釣り合いがとれる代物かもしれない。

「なら早速香月の方に話を通してもらえるか?」

「はい。全然構いませんよ」

「悪いな」

「でもいきなりどうしたんですか?突然新しい技術だなんて…」

 白銀の疑問は最もだ。

 …白銀になら話してもいいよな?

「そろそろ新しい戦術機が欲しくなってきてな。撃震のスペックじゃああいつらの腕がフルに生かせないんだ」

 もし特殊任務部隊の奴らが訓練兵だったら新しい戦術機は必要なかった。

 しかし、俺やあいつらはよく前線へと駆り出される。香月の研究のために、だ。

 前線で自分の腕がフルに発揮出来ない事程辛いものはない。

「そこで香月にどうにか出来ないかと話を聞きにいったんだが…」

「丁度都合の良いものがあった、って事ですね」

「理解が早いな。これだよ」

 部屋の机の上に無造作に広げてあったXFJ計画に関する資料を白銀に手渡す。

 …。

「不知火の強化型…!不知火だけでも充分かもしれないのに…更にその強化型ですか…つまりXM3をその対価とする、って事ですね?」

「そういう事だ。お前も言った通り只でさえ普通の不知火を部隊分用意するだけでもかなりの金が掛かるんだ。その強化型なんて言ったら幾ら掛かるか予想もつかない」

「だからこその新技術ですか…」

「ああ、このXM3なら不知火の強化型とも充分に釣り合いが取れるとも思っている。…あいつらのためにも俺に協力してくれないだろうか」

 俺が不知火強化型に釣り合うだけのものが用意出来なかったため、白銀に頼る事になってしまった。
 
 つまり、最終的な決定権は白銀に委ねられる事になる。

「当たり前じゃないですか。そもそも俺はXM3を何の見返りも求めずに普及させようとしてたんですよ?そこに不知火が手に入る可能性があるのなら、このXFJ計画の対価として出しても文句は言いませんって」

 …ったく、白銀って奴はつくづく英雄だな。

「なら有り難く使わせてもらおう。…と言っても使えるかどうかも分からんがな」

 こればっかしは香月に話を聞きに行くしかない。

 だが俺が行った所で明白。

 重ね重ね悪いが、此処は白銀に行ってもらうしかないだろう。

 俺が言ってもXM3の内容はわからないんだ。しょうがないだろう?

「すまないが白銀、早速香月の所に行ってもらってもいいか?」

「分かりました。これも皆のため、ですもんね」

 そう言いながら笑顔を浮かべる白銀を見て、少しばかり心が痛む。

 …俺は皆のためなど思ってない。俺は俺の大切なもののためだけにXM3を使わせてもらう。

 俺が此処で戦う理由はあいつらを守る事にある。

 極論になるかもしれないが、俺からすれば他などどうでもいいんだ。俺の大切な人達だけ守る事が出来るなら。

「それじゃあ俺は夕呼先生の所に行ってきますね。…変わりと言っちゃなんですが、俺が戻るまでの間冥夜達の面倒見てもらえませんか?」

「どういう事だ?」

「あいつらこの後基礎訓練があるんですよ。本来は俺がいないといけないんですが…駄目ですか?」

 ああ、そう言えば白銀はあの訓練兵達の上官としてここに任官したんだったな。

 …それならば俺が今日限定で訓練兵の面倒を見るしかないだろう。当然の事だ。

「やるに決まってるだろう?安心して逝ってこい」

 自分でも逝ってこいの文字が間違えているのは分かっている。

 何故逝ってこいかって?

 理由は簡単だ。

 XM3と言う新しいOS。この単語だけで分かると思うが、間違いなく香月が切れる。その姿が容易に想像できてしまう。

 もしかしたら、この間の俺でストレスが解消されているかもしれないが、そこはあの香月だ。そう甘くはないだろう。

 …すまないが白銀。これもお前のタメなんだ…!

「シルバさんなら安心して任せられますね!それじゃあ俺は行って来ます!」

 俺の事を微塵も疑わない白銀の態度に些か俺の良心が痛む。

 …。

 さて、白銀から榊訓練兵達を任せられたからには面倒を見るしかないだろう。

 と言っても基礎訓練だからな、俺は見ているだけだと思う。

 基礎訓練は簡単に言うと体力造りだ。

 戦術機に乗るのにはそれ相応の体力と精神力が必要だ。

 当然最初からACに乗っていた俺に体力造りなんてものは必要ない。

 俺から言わせれば戦術機はACのグレートダウン機体だ。寧ろ俺に掛かる負荷が少なくなったぐらいだからな。

「まだあいつらはPXにいるよな?」

 部屋の中にある時計を見てもそう時間は立っていない。

 まだ訓練兵達はPX内にいるだろう、と言う予測を立て、白銀が出ていった扉から俺も出て行く。

 この時俺は分かっていなかった。

 基礎訓練なんだから見ているだけでいいだろう、なんて甘く考えていた俺が間違えていた事を…。

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「って言う事で、白銀は用事で少し席を外す。だからこの時間は俺がお前らの面倒を見る事になった。宜しく頼む」

 今いる場所は横浜基地内のグラウンド。

 基礎訓練は体力造りなので、外になる事は必須だ。

「「「…」」」

 それで俺が白銀の変わりと言う事でここに来たのだが、皆イマイチ理解出来ていないようだ。

 教官である神宮寺と言ったか?彼女も唖然と口を開いている状態だ。…教官である貴方がそれはまずいでしょうに。

「…何かまずかったか?」

 流石に誰も発言しないと俺が悪いのかと思ってしまう。

「い、いえ!問題はありません!…ですが何故貴方が?」

「先も言っただろう?白銀は俺が頼んだ用事で暫くはこれない。だから俺がこの時間だけ面倒を見る事になったんだ」

「そうですか…」

 俺の返答がいまいち腑に落ちなかったようだ。
 
 まぁ神宮寺教官が納得しようが、しまいが俺は白銀から任せられた以上面倒を見ないといけない。例えそれがこの時間だけでも、だ。

 と言っても俺のやることがない事も事実。

 …そうすると俺が暇になるからな…何か面白い訓練内容がないものか…。

 今からやり訓練内容を少し変えようと頭を回転させていると、冥夜が一歩前に出てきた。

「よければ格闘訓練を指導していただけないでしょうか!」

「ほう…」

 冥夜と言う女性は外見からも気が強いとは思っていたが…ほぼ初対面の俺に格闘訓練を申し込んでくるか。

 まがりなりにもHIVEシミュレーターを攻略した俺に、だ。

 その度胸に釣り合うだけの腕があればいいが…。

「いいだろう。俺も見てるだけじゃ暇だしな」

 肉体改造を施された人間の力が如何なるものか見せてやろうじゃないか。

 …この世界に来てから格闘戦をするのは二回目だな。

 一回目は当然特殊任務部隊の奴らだ。

 シミュレーターで俺に勝てない速瀬が逆上し、あろうことか俺に格闘戦を挑んできた。

 当然結果は俺の圧勝だったけどな。

「シルバ少佐、よろしいのですか?」

 格闘訓練をすると言う事で、準備のために上着を脱いでいた所に神宮寺の声が掛かる。
作品名:MuV-LuV 一羽の鴉 作家名:コロン