こらぼでほすと 解除4
トダカは、そう言って薄く笑っている。どうやら怒っているらしい。見た目には、まったくわからないが、それはそれは怒っているのだ。オーヴにも暗部で動く部隊がある。装備は、そちらから調達すれば、オーヴの所属だとは判明しない。トダカ自らで乗り込んで、ボコボコにしてやりたいぐらいに怒っている。ふたりだけだから、ちょっと気を抜いたらしく、燃えるような気配がトダカからする。
「その喧嘩、父親が買う前に亭主が買うのが筋だ。」
「そうかな? 父親が買うのが筋だろ? 」
「あんたらに、ちょろちょろされたら喧嘩しづらい。間違って撃ち殺すぞ? 同じような装備の人間なんて見分けてる暇はないからな。俺は急所しか狙わない。もう少し、娘と余生を楽しみたいなら、出てくるな。」
基本、神様枠とか妖怪なら気配で解る。だから、坊主の仲間だけで乗り込めば、間違うことはない。そこへトダカーズラブのメンバーが混じるとややこしいことになる。坊主も売られた喧嘩は買う主義だ。それも、せっかくフルタイム女房にクラスチェンジするというのに、ここで殺されては迷惑だ。これからは、「あれ。」「これ。」「それ。」で、事足りる生活が待っている。それをぶち壊すというなら、その企みを破壊するまでのことだ。
「やっぱり、怒ってるんだね? 冷静だったから、冷たいなあ、と、責めてたんだ。」
「何言ってやがる。あんたのほうも、だろ? どこの世界に、ただのアホの奪還にオーヴの情報部を動かすバカがいる? 」
「ここにいる。はははは・・・・ただのアホだけど、可愛い娘だ。私は親バカだから、それが正しい行いじゃないか? 」
「ぬかせっっ。」
「だって、あの子、これでようやく、ほっとできるんだ。それを眼の前にしてダメになるなんて許されないだろ? 」
数年付き合っているトダカにしたって、ここでニールが死ぬなんて許せない。ようやく身体を治して、肉体的な不安から解消されるのだ。やるなら歌姫単独の時にやれ、と、ユニオンに怒鳴りたいぐらいの激怒具合だ。身体が落着けば、自ずと精神的にも落着いてくる。そうなれば、あまりダウンしたり激しく落ち込むような事態にはならない。今までのニールは、それが激しかったから、トダカたちじじいーずも心配していたのだ。
「心配しなくても、取り返してくる。情報だけはキラに送ってやれ。」
「それも手配した。空母の内部詳細は、うちにあるはずだ。」
「拉致場所も判るものか? 」
「独房とか貴賓室とか、そういうのも載っている。さしずめ、うちの子は、オーナーと一緒に貴賓室だろうね。ニールの身体には、特殊な発信機が埋め込まれているから探すのは簡単なはずだ。護衛陣は死んでなければ、独房だろう。確か、ハイネにも埋め込んであるはずだ。」
「そっちは、妖怪どもに任せる。俺は女房の奪還に手を出すだけだ。」
「愛妻家で嬉しいねぇ。・・・・頼んだよ? 三蔵さん。」
トダカだって、乗り込むのは最終手段だ。坊主が、それを請け負うというなら引き下がるしかない。まず優先すべきなのは、オーナーであるラクス・クラインだ。そちらはキラたちが行動するだろう。娘のほうは亭主が出張るというのだから、父親としては待っているしかない。
「ここの内装を、あれが帰って来るまでに仕上げてくれ。たぶん、あれは何も知らないはずだ。・・・・だったら、なかったことにしとけ。」
まったく意識のない状態のニールには、何が起こっているか理解できないだろう。それならそれでいいのだ。何事もなく、治療してもらって地上に帰ってくればいい。知れば、何かと気に病むのだから、知らせないのが得策だ、と、坊主は言う。
「そうだね。オーナーがシャトルに搭乗されたら、ここの手配はしておくよ。とりあえず、本宅まで同道はさせてもらおう。地上でやることなら、私でも手伝える。」
「親衛隊は動かすなよ? トダカさん。」
「くくくくく・・・さあねぇ。そっちは、見なかったことにしてくれ。私にも腹に据えかねることもあるんだ。」
地上の特区でということなら、トダカは自由に差配できる。ユニオンのほうに、攻撃はしておくつもりらしい。どういう攻撃かは不明だが、激しいだろうと、坊主も口元を歪める。ラクス・クラインを拉致するというなら、ここまでトダカも怒らないし、坊主も動かない。坊主なんかスルーの方向だし、トダカも冷静に奪還計画に参加するだろう。ついでのおまけで拉致された生き物が問題だった。
「くくくく・・・俺の女房を攫ったら、地獄の蓋が開くんだと思い知らせておこうぜ、トダカさん。」
「いいねぇ、三蔵さん。確かに、それぐらいの威力はあるだろうさ。」
ふたりして、よからぬ話をしていたら、爾燕と紅が戻って来た。ようやく戸締りできるブツが調達できたので、四人も早々にエアカーを手配して本宅へ向かった。
ソレスタルビーイングでも、騒ぎになっていた。というのも、ティエリアがドックにあるリペアのMSにGN粒子の電池を取り付けると騒いでいるからだ。
「なぜ、そんなことをする必要があるんだ? ティエリア。」
ブリーフィングルームにやってきた刹那は、首を傾げている。現在進行形で起こっている事件については説明を受けたが、それでもティエリアの慌てブリは理解できない。
「てか、兄さんを誘拐って、なんの価値もないぜ? 身代金が目的なら、俺が払ってやるけどさ。」
こちら、茶化すような口ぶりで、目がものすごく吊り上がっているロックオンも、ティエリアの動きには、はい? という態度だ。
「ロックオン、デュナメスリペアで地上に降下しろ。アレルヤはキュリオスリペアだ。二機とも完成させておいてよかった。」
「だから、ティエリア、まずは説明をしろ。それは、どういう戦術なんだ? 」
「ニールが拉致されたんだ。俺たちが行かなくて、どうするんだ? 刹那。」
「え? でも、キラは、『待機しろ。』って言ったんでしょ? ティエリア。僕らは動かないほうがいいんじゃないの? 」
「だが、ニールは・・・万が一のことがあったら・・・援護にはなる。」
ティエリアも気が動転しているらしい。なぜ、ここで拉致されるんだ? というのが頭でグルグルしている状態だ。まずは情報確認というところだが、そちらはリジェネがやってくれて、常時、その情報がティエリアにも伝えられている。
「ユニオンの目的は、ラクス・クラインだ。・・・ニールではない。必要じゃない人間なんて、殺される確率が高い。それなら、奪還すべきは俺たちの役目だ。」
それぐらいのことは考えた。拉致する側とすれば、必要なラクス・クラインさえ手に入れば良い訳で、それ以外の人間は邪魔なものだ。そう考えると、居ても立ってもいられない。
「でも、勝手に動いたら、キラたちにも迷惑が・・・。」
「俺たちは、俺たちでやればいい。キラたちの邪魔にならないように戦術は考える。スメラギにも、そう伝えた。」
組織の戦術予報士は、現在、このドックではなく、別の場所に居る。ティエリアは、そちらに情報を送り、戦術を授けてくれ、と、依頼もした。分析が終われば、スメラギから戦術プランが送られてくるはずだ。
作品名:こらぼでほすと 解除4 作家名:篠義