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ゆらのと

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しかし。
眼をふたたび銀時の背中にやる。
自分より、もっと、銀時のほうが。
銀時にとって松陽は家族のような存在だった。
いや、幼い頃に拾われてからずっと一緒に暮らしてきたのだから、家族そのものだろう。
この思い出の降り積もる部屋にいて、どんな気持ちになるだろうか。
きっと、自分よりも、ずっと悲しい、ずっとずっとつらい。
そう思うと、眼のまえにある背中になにを言えばいいのかわからなくなった。
今はそっとしておいたほうがいいのかもしれない。
などというのは、無力な自分の言い訳だ。
しかし、今はなにもできない。
どうすればいいのかわからない。
帰ろう。
そう思った。
そのとき。
「……また、置いていかれた」
銀時の声が聞こえてきた。
乾いた、少し重い声だ。
「また、ひとりになった」
桂はハッとして、眼を大きく開いた。
帰ろうと踵を返しかけていた足を止める。
そして、銀時のほうに近づいてゆく。
すぐ隣まで行くと、腰を下ろした。
「……銀時」
話しかける。
「おまえはひとりではない」
畳の上に置かれた銀時の手に、自分の手をそっと重ねる。
伝わればいいと思った。
自分がここにいること。
ここにはいないが、支えてくれる仲間たちがいること。
決して、ひとりではないこと。
手のひらの温もりとともに伝わればいいと思った。
外から鳥の啼く声が聞こえた。
縁側へと出る障子は締めきられているが、薄暗い中、庭からの光を受けて障子紙がほのかに白く輝いて見える。
ふと。
手のひらの下で、銀時の手が動いた。
「……どれだけ想えば」
銀時の手が拳に握られるのを感じる。
「ゆるされるんだ?」
独り言のように銀時は言った。
桂は眼を瞬いた。
頭の中で、銀時の言ったことを繰り返してみる。
意味がわからない。
「銀時、それはどういう……」
「なんでもねェよ」
桂の問いかけをさえぎり、銀時は強い調子で告げた。
手のひらの下にあった手が引き抜かれ、去ってゆく。
「んなこと考えてる場合じゃねェのにな」
また銀時はわけのわからないことを言った。
そして、さらに続ける。
「とことん、俺ァ、浅ましい」
自嘲するように鼻で笑った。
桂は眉根を寄せる。
ますます、わからない。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio