ゆらのと
この家に来るまえ、どうするか悩んだ。
手紙を見せれば、桂が別れを告げるかもしれないと予想した。
しかし、手紙を見せなければ、手がかりがつかめない。
放っておくわけにはいかなかった。
放っておけば、また、新八と神楽が狙われるかもしれない。
それは、ふたりを自分の中で切り捨てるのと同じことだ。
どうしても、それはできなかった。
だから、手紙を桂に見せることに決めた。
その瞬間、自分は新八と神楽を護ることを選び、そして、桂と別れることをある程度は覚悟したのだった。
覆い被さっていた身体を退いた。
ぼうぜんと、座る。
桂が上体を起こした。
その身体がすぐそばまでくる。
「……おまえを責めているわけではないんだ」
桂は穏やかに言った。
責める。
なにについてなのかを、桂ははっきりとは言わなかった。
けれど、なんのことだか、わかった。
他にはなにもいらないと言ったが、それよりまえに、桂とともにあることよりも新八と神楽を護ることを選んでいた。
嘘つきだ。
自分は。
胸が痛んだ。
鋭利な刃物でザクッと深くえぐられたように痛んだ。
なにも言えずにいると、桂がふたたび口を開く。
「あのふたりを護りたいんだろう?」
その声音は優しい。
思い出す。
爆破された万事屋から真選組の隊士たちが引きあげたあとのことだ。
被害の少なかった部屋もあるものの、しばらくは新八の家で寝泊まりしようという話になった。
それから、新八の家に向かった。
三人で道を歩いていた。
そのとき、新八と神楽は言った。
幸いと言っていいかわかりませんが、半壊程度ですみましたし、僕たち三人で直しましょう。
大工の仕事は万事屋の仕事で慣れてるから大丈夫アル!
ふたりの声は明るく、こちらに向けた顔は笑っていた。
自分が沈んでいるのを察して、励ましてくれているようだった。
あの状況だから、気落ちしてもおかしくないのに。
いや、爆破された万事屋を見た直後は明らかに衝撃を受けていたのに。
それなのに、平気な様子を装って。
こちらのことを思いやって。
たいしたことではないように明るくふるまって、そばにいてくれた。
だから。
どうしても、ふたりを切り捨てることはできなかった。
たとえ、桂と別れることになるかもしれなくても。
あのとき、自分は、桂を選ばなかった。
選べなかった、どうしても。
「だが」
いつのまにか口が動いていた。
「別れるのが嫌だって言ったのは嘘じゃねェ」
別れたくなかった。
今もそうだ。
別れたくなんか、ない。
その眼をじっと見る。
桂は見返してきた。
「知っている」
そう応えた。
だから、さらに言う。
「そばにいてほしいって言ったのも嘘じゃねェ」
「知っている」
手を伸ばす。
その顔に触れたくて。
触れる。
触れた瞬間、想いがあふれる。
「この世で一番大切なのは、おまえだ」
だれよりも、だれよりも、大切な人。
「それは、絶対に、嘘じゃねェ」
「知っている……!」
かみつくように桂は言った。
綺麗な顔を歪め、苦しそうに、悲しそうに、言った。