ゆらのと
「ねえ」
お咲が声をかけてきた。
「私が持ってきた鬼嫁、ここに置いてある?」
「ああ」
「じゃあ、一緒に呑まない?」
そう提案された。
お咲とのあいだにある空気が濃くなったように感じる。
けれども、悪い気はしない。
だから。
「ああ」
銀時は同意した。
それから、銀時が先に行き、お咲があとについてくる形で、二階の万事屋へと続く階段をのぼる。
爆破されたときの被害が大きかった玄関周辺は、時間があるときに三人で修復作業をしているものの、元通りというにはまだまだ遠く、天井が吹き飛んでしまっているところからは、かぶき町らしい星の見えないくすんだ夜空が見えた。
応接間兼居間のほうへ行く。
午よりも夜のほうが活気のあるかぶき町の喧噪から、ほんの少しだけ遠ざかる。
お咲を応接間兼居間に通すと、銀時は台所へ行き、鬼嫁とガラスのコップをふたつ持ってくる。
「このクソ寒いのに熱燗じゃなくて、冷やになっちまって、悪ィ」
銀時はソファに座っているお咲にコップを渡す。
「私は熱燗より冷やのほうが好き。それに、呑んでるうちに身体が温まってくるでしょ」
さらりと言って、お咲はコップを受け取った。
その横に、銀時は座る。
それから、呑み始める。
酒を八分目ぐらいまで注いだコップに口をつける。
舌になめらかな感触があり、香りが鼻梁を駆けあがる。
辛い。
しかし、うまいと感じた。
酒が喉を通りすぎ、体内に染みわたる。
また、コップに口をつけた。
そんなふうに呑み続けるうちに、お咲の言ったとおり、身体が温まってくる。
酔いがまわってくる。
呑みながら、お咲と話をした。
酔って気分が高揚しているせいもあってか、楽しいと感じる。
お咲が隣にいて、心地良いと感じる。
「アンタさァ」
軽く笑って、お咲に言う。
「見た目と中身が違うって、言われねーか」
お咲も笑った。
「よく言われる」
そう答えた顔の横で、やわらかそうな茶色い髪が揺れた。
ふと、お咲が遠い眼をした。
「……子供の頃は、同い年の男の子たちよりも背が高かったの。それに、家の中でおとなしくしているよりも、外で駆け回るほうが好きだった」
昔の話をし始める。
それを、銀時は黙って聞く。
酔っていて、身体が少しだるくなっている。
「両親からは女の子らしくしなさいってさんざん言われた。だけど、そう言われて反撥して、余計に女の子らしくなんかしなくなった。言葉遣いは乱暴だったし、男の子と取っ組み合いの喧嘩をしたりもした」
今のお咲からは想像できないことだ。
「男になりたいって思ってた。近所の綺麗なお姉さんを見ても、あんなふうにはなりたくないって思ってた」
お咲は眼を伏せた。
一瞬、間があってから、また話し始める。
「でも、年頃になるにつれ、私の背は伸びなくなって、同い年の男の子たちに追い抜かれ、さらに、私の身体は勝手に女らしくなった。戸惑ったし、嫌だった。でも、そう思ったのは、しばらくのあいだだけだった。好きな人ができたの。私が昔そうなりたいと思っていたような、身体の大きな男の人」
そこまで話すと、お咲は口を閉ざした。
なんとなく気になって、銀時は聞く。
「……で、そいつとはどーなったんだ」
「うまくいっていたら、今、ひとりじゃないわ」
お咲は頬にかすかな笑みを浮かべて答えた。
「それに、ただフラれただけなら、あんな組織の連中に眼をつけられることもなかった」



