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ゆらのと

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あの人身売買組織が狙ったのは、警察に訴え出ることをためらうようなワケありの者ばかりだ。
つまり、お咲の惚れた相手はタチの悪い男で、その男と関わってしまったせいで、ワケありの者になってしまったということなのだろう。
お咲はコップに口まで運び、少し残っていた酒を一気に飲み干した。
そして、カラになったコップをテーブルに置く。
「……ねえ、銀さん」
隣で、名を呼んだ。
「組織の連中に追われていたときに助けてもらって、次の日に事情を話して、そうしたら、銀さん、みんなを助けに行ってくれた。あのとき、戦いに行く銀さんの背中、広くて、たくましくて、格好良かった」
距離が縮まるのを感じる。
「すごく、格好良かった」
お咲が身を寄せてきた。
腕に温もりを感じる。
女の身体のやわらかさを感じる。
もたれかかられて、お互いのきもの越しとはいえ触れて、心地よく感じる。
こうなることは、お咲から一緒に呑まないかと提案されて承諾したときに、心のどこかでうっすら予想していた。
恋愛感情とまではいかないが、微熱のような好意を自分はお咲に対して持っていて、そして、お咲からもそれを感じ取っていた。
お互いに、その微熱を自分の中にとどめておいて、やがて冷めるのを待つこともできた。
だが、あのとき、自分の中にとどめておくほうではなく、お互いのそれを重ね合わせるようになるかもしれないほうを、選んだ。
そして、今、あとは、ふたりして川に飛びこむようにして、流れにまかせて、行き着くところまで行ってしまえばいい。
お咲を見る。
今度は自分のほうから触れようとする。
しかし。
そのやわらかそうな茶色の短い髪を見て、ふいに、まぶたの上に、まったく別のものの記憶が浮かんだ。
つややかな漆黒の長い髪。
真っ直ぐなその髪は、芯があるように少し堅くて、指ですくと、指のあいだをさらさらと流れ、けれども、動きを止めると、手にしっとりとなじんだ。
その感触が、好きだった。
それを思い出した。
その髪の持ち主の顔を、一緒にいたときに見せた表情を、思い出した。
そして、その言ったことも、思い出す。
これまでのことを全部、おまえと過ごした日のことをすべて、俺に捨てろと言うのか、俺の大切な記憶を捨てろと言うのか。
今夜うちに来い、おまえのほしいものをやる。
おまえは俺の知っている者の中では、一番優しい。
苦しんでいるなら、話してほしい。その痛みをわけてほしい。ひとりで苦しまないでほしい。そばにいるのになにもできないほうが、俺はつらい。
その声は耳によみがえり、強く響いた。
感情が大きく揺れ動く。
高波のように揺れて、激しく打ちつけてきて、胸が痛んだ。
今、そばにいない。
しばらく会っていない。
会えない。
触れることができない。
それが、つらい。
会いたいと、心が強く求める。
あれは、俺の。
一番大切な。
最愛の。
もの。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio