ゆらのと
桂は小動物が好きだから、つい足を止めて眺めているのだろう。
可愛いとか触りたいとか思っているのだろう。
そう銀時は推測した。
ふと、桂がこちらのほうを向いた。
自分に向けられる視線に気づいたらしい。
笠の下の切れ長の眼が銀時をとらえる。
ハッとその眼は見張られた。
お互い、立ちつくし、相手の顔を見る。
同じ橋の上にいる人々はまったく気にもとめずに通り過ぎていく。
その行き交う人々のたてる騒がしいぐらいの音がなぜか遠く聞こえ、自分たちふたりだけ時が止まったように、見つめ合う。
だが、しばらくして、桂の眼が細められ、伏せられる。
うつむかれると、笠が邪魔で、表情がわからなくなる。
思わず、銀時は足を踏み出した。
直後、桂は身をひるがえし、背を向けた。
去っていく。
そのうしろ姿を、足を止めたまま、じっと見る。
ただ、見送る。
しょうがねェじゃねーか。
そう胸の中で吐き捨てる。
自分たちは別れた。
それを選んだ。
だから、この橋の上で出くわすまで、会わなかった。
会いに行かなかった。
行きたかったが。
会いたかったが。
銀時は口を引き結び、歯をギリッとかみ合わせる。
拳を強く握った。
遠ざかっていくうしろ姿を、そんなふうに見送る。
胸が痛い。
締めつけられているかのように、痛い。
川のほうからユリカモメの鳴く声が聞こえた。
足を踏み出す。
歩きだす。
帰り道だ。
追っているわけじゃねェ。
そう思う。
けれど、歩く足はどんどん速くなった。
橋を渡りきり、道へと出る。
桂のうしろ姿が眼のまえにあった。
あと少しの距離だ。
気づいた桂が振り返る。
驚いた表情。
それを見た直後に追いつき、その腕をつかんだ。
「なっ……!」
桂が声をあげる。
その腕を強く引っ張り、道の端に連れていく。
足を止めると、桂は自分の腕をつかんでいる手をふりほどこうとした。
しかし、強くつかんだままでいる。
「放せ……!」
桂は厳しい表情で言った。
まわりにいる者が諍いに眼を向けるのを避けるためか、小声だった。
その顔を食い入るように見て、言い返す。
「つかまえちまった以上は、もう放せねェよ」
会いたかった。
ずっと会いたかった。
この顔が見たかった。
触れたかった。
だが、その気持ちをこれまでずっと抑えてきた。
橋の上で会ったのは偶然で、なにもなかったように過ぎるべきなのはわかっていた。
追うべきではないとわかっていた。
それでも、足が勝手に動いて、追っていた。
頭の考えることを無視して、追っていた。
そして、追いついて、つかまえた。
ずっと会いたかった。
顔が見たかった。
触れたかった。
その相手を、今、つかまえている。
もう放せない。
どうしても、放せない。



