ゆらのと
桂が眼を開ける。
こちらのほうをちらりと見た。
「……なにバカなことを言っているんだ」
眼をそらして素っ気なく言い、身体を起こした。
布団から離れていく。
少しして、銀時も起きあがった。
自分のほうに向けられている桂の背中に近づく。
桂は畳に腰をおろし、情事のあとの処理をしていた。
その隣に無造作に座り、横に手を伸ばす。
長い黒髪を一房、指にからめる。
桂がこちらのほうを向いた。
「なんだ」
堅い表情をしている。
「やりたいこと、やってるだけだ」
軽く笑って答え、指にからめた髪を放した。
そして、今度は髪をなでる。
つややかな黒髪。
さっきまで、布団の上でさんざん乱れていた。
その乱れを直すように、なでる。
すぐ隣に座っているので、触れていなくても、その体温は伝わってくる。
それが心地いい。
「おまえ、な」
桂が言う。
「自分が今どんな顔をしているのか、わかっているのか」
なぜそんなことを聞くのか、わからなくて、髪をなでる手を止めた。
桂はふたたび口を開く。
「いつも締まりのない顔をしているが、今はその二割増し、だらしない顔をしている」
そう告げたあと、桂は眼をそらした。
その横顔には、困っているような表情が浮かんでいる。
照れくさそうにしているようにも見えた。
だから。
「たしかにそーかもな」
にやりと笑う。
「だが、その理由、おめーにはわかってるんだろ」
すると、桂はますます困っているような表情になった。
その表情を見て、胸に温かいものがわいた。
長い黒髪を指ですく。
そして、その頬に手をやった。
顔をこちらのほうに向かせる。
そらされていた眼がこちらをじっと見る。
切れ長の、黒目がちの、綺麗な眼だ。
なにかに引き寄せられるように、その顔に自分の顔を近づける。
桂は避けようとはせず、それどころか、長い睫毛に縁取られたまぶたを閉じた。
唇を重ねる。
「……好きだ」
少し離れたあとに、告げた。
そして、また唇を重ねる。
「すげー好き」
離れたあとに、また告げた。
桂の表情が揺れる。
自分こそ、今どんな表情をしているのか、わかっているのだろうか。
普段は堅い表情ばかりしているくせに、今は、やわらいでいる。
安心しきっているような、満ち足りているような、顔をしている。
その表情が胸に焼きつく。
ここから帰ったあとも、離れていても、何度も思い出すだろう。
本当に、タチが悪い。
なにも言わずに、腕を桂の背中にまわし、その肩を抱き寄せる。
桂もなにも言わず、その身体を預けてくれる。
どちらも黙っているが、居心地は悪くない。
むしろ、良い。
時が刻々とすぎていくのが恨めしいぐらいに、良い。
こういうのを離れがたいって言うんだろうな。
そう思った。



