ゆらのと
頭に過去の光景がよみがえっていた。
遠くにいる猫を餌づけしようと道ばたに桂が腰をおろしている光景だ。
その背中は今より一回りも二回りも小さい。
「……銀時?」
いぶかしげに名前を呼ばれて、現実に引きもどされた。
「いや、ちょっと、昔のこと思い出した」
小さな背中。
そして、小さな肩。
「おまえってさァ、なんか、小せェ頃から、いろんなもん、背負ってきたよなァ」
あの小さな肩に。
「家とか」
幼い頃に隣家の武家の養子となり、だが、それからしばらくして養父母を立て続けに亡くして、跡目を継いで当主となり、家を背負うことになった。
しかし、松陽が亡くなったあと、その家を養子に継がせて、脱藩し、戦に身を投じた。
背負っていた家を、その肩から、おろした。
けれど。
「それから、仲間とか」
攘夷軍に身を置いて天人軍と戦い続けるうちに、まわりの者たちから推される形で軍を率いるようになった。
英雄と讃えられるようになった。
しかし。
「そーゆー星回りってヤツなのかもしれねェけど、大変だよな」
人の上に立つということは、責任を負うということだ。
昔のあの小さい肩に、そして、今も銀時よりは小さな肩に、その重たいものをよく背負ってきたものだと思う。
桂は遠い眼をした。
「……そうだな」
少して、桂は言った。
「俺にしてみれば、いつのまにかそういうことになっていたという感じだ」
その眼が、向けられる。
「大変ではなかったとは言えない。だが」
堅い、凜とした眼だ。
「その大変なときに、いつもおまえがそばにいて助けてくれた。だから、折れることなく、乗り越えられたのだと思う」
真っ直ぐにこちらを見て、告げる。
「おまえには感謝している」
真剣な表情をしている。
心の底からそう思っていることを言ったのが、わかる。
その言葉は、胸を打った。
だが。
「てめーに感謝される覚えはねェよ」
口が勝手に動く。
「俺ァ、てめーにはさんざん苦労させてきたんだからな」
頭はなにも考えず、胸にある想いをそのまま吐き出した。
桂は眉根を寄せた。
「なんのことだ」
「おまえ、俺が戦に出るって言い出さなくても、藩を脱けて、戦に出たか」
強い口調で聞いた。
桂の眼が見張られる。
そして、すぐに、そらされた。
「……出た、と思う」
「一瞬、迷ったよな」
「仮定の話をされたって、実際はどうなったかわからないだけだ」
そう言い返してくる。
しかし、その眼はそらされたままだ。
眼を見られることを、眼から本心を読まれるのを恐れているように。
「実際どうなったかわからない、か」
結局はそれが回答だ。
「出たかもしれねェし、出なかったかもしれねェってことだろ。つまり、決定打は俺だったってことじゃねーか」
そう問う。
だが、桂は答えない。
口と堅く閉ざしている。
その横顔をじっと見る。
あのまま、桂家の当主であり続けても、藩がなくなるほどの時代の荒波を受けて、苦労しただろう。
しかし、戦場に身を置くほど、それも、やがて大敗する側にいるほど、過酷なものではなかっただろう。



