ゆらのと
それに。
「戦に出たら出たで、俺が天人と見分けがつかねェてことで、軍に入るの断られたり、嫌がらせされたりしてなァ。俺がいなけりゃ、おめーだったら大歓迎されてたんじゃねーの」
「それは」
ようやく桂の顔がこちらに向けられる。
その眼差しは厳しい。
「そんなくだらない理由で断ったり嫌がらせするような者たちとともに戦いたくはないし、歓迎されても嬉しくはない」
「おめーは公正だよなァ」
桂らしい生真面目な返事に、つい、鼻で笑う。
「つーか、変だ」
「変じゃない、あたりまえのことを言っただけだ」
「そのおめーにとってあたりまえのことが、他の者からすりゃフツーじゃねェっての」
そう指摘すると、桂は黙りこんだ。
しかし、納得しているわけではなさそうだ。
不満が胸にあることが、顔にはっきりとあらわれている。
単に言い返す言葉が見つからないだけだろう。
それを桂が見つけるまえに、口を開く。
「だいたい、天人と見分けがつかねェってのは、くだらない理由なんかじゃねェだろ」
堅い桂の眼を見て、言う。
「俺と神楽に、どれだけ差があるって言うんだ」
桂の表情が強張った。
唇が強く引き結ばれる。
それを見て、言いすぎた、と思った。
言わなくていいことを言ってしまった。
触れたくなくて触れずにいたことを、それを察して触れずにいてくれたことを、勢いにまかせて言ってしまった。
クソッ、と胸の中で吐き捨てる。
自分に対する非難だ。
神楽の肌は透けるように白い。
だが、この国の者であっても、それぐらい肌が白い者はいる。
見た目がこの国の者と明らかに違うのは髪の色だけだ。
見た目以外では、力の強さと、傷の治りの速さ。
髪の色がどう違うか以外は、自分と同じだ。
そのことに桂が気づいていないはずがない。
幼い頃から銀時が言われていたことは、結局のところ、正しかったと証明されたようなものだ。
もっとも、自分と似た存在があらわれなくても、そんなことは、とっくの昔に知っていたことだが。
ただ、触れたくなかった、表に出したくなかった、だけだ。
「……銀時」
呼びかけられた。
意識しないうちにうつむいていた顔をあげる。
眼が合う。
その眼は強張ってはいない。
しかし、凜とした意志が宿っている。
「俺はおまえを初めて見たとき、その髪がふわふわとやわらかそうで、触ってみたいと思ったんだ」
いつものように真面目な顔をして言った。
真っ直ぐに向けられている眼からも、嘘は感じられない。
ああ、と思う。
胸の中に、なにか温かいものが広がる。
「……なんだソレ、俺は犬や猫と同じかよ」
心とは裏腹に、文句を言った。
そうでもしなければ、感情が高ぶって、心がぐらぐら揺れて、みっともないことになってしまいそうだった。



