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ゆらのと

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「ああ、光栄だろう」
「どこが光栄なんだ」
「あのような可愛らしい存在と同じなんだぞ。光栄に決まっているだろうが」
「……テメーの中じゃ、犬や猫の地位はめちゃくちゃ高いんだろーが、テメー以外で、犬や猫と一緒にされて喜ぶヤツァ、めったにいねーよ。つーか、いい歳した男が可愛らしいとか言うな、気持ち悪ィから」
「気持ち悪くなんかない!」
冗談のようなやりとりだが、桂は大真面目である。
だから、おかしい。
だから、救われる。
「やっぱり、変だ、テメーは」
軽く笑って、言う。
「松陽と同じで、変だ」
つい口から出た台詞だった。
言ってから、しまった、と思った。
眼をそらす。
今日はどうかしている。
いつもは触れないようにしていることを、自分から二度も言ってしまった。
口に手をあてる。
自分からは自分の表情は見られないが、きっと不機嫌な顔をしているだろう。
さりげなく流してしまえば良かったと思う。
しかし、もう遅い。
気まずさを感じながら、黙りこむ。
「銀時」
名を呼ばれた。
だが、顔をあげずにいる。
「すまないが、踏みこむ」
そう告げた桂の手が近づいてきて、頬に触れた。
「おまえにとって、松陽先生はどういう存在なんだ」
桂の手に力がこめられ、そちらのほうを向かされた。
その手を振り払うこともできる。
しかし、そうせずに、眼を閉じた。
視界は闇色に染まり、そこに浮かんでくる。
あの人の面影。
「どうしても、知りたい」
そんなこと聞かなくても知っているだろう。
そう思ったが、言わない。
桂は察していることであっても、言わせたいのだ。
踏みこむと言ったのも、そのまえに詫びたのも、そういうことなのだろう。
「……捨てられて、一人で生きてた。あの頃は世が乱れてたから、争い事はしょっちゅうあって、俺ァ、それが終わったあとに行って、死体からいろんなもん漁って、生きてた」
重い口を開き、話す。
「それで、ならず者っぽいヤツらの争いのあと、そこで食い物を見つけて、それ食ってたら、松陽がやってきた」
頭に浮かんだ光景を、言葉にする。
あれは、松陽と初めて会ったときのことだ。
「あちこちに死体が転がってて、それも、殺し合いの結果の死体だ、そんな血なまぐせェところでメシ食ってた俺に、松陽は近づいてきた」
だれにも話したことのない思い出だ。
「屍を食らう鬼が出ると聞いたから来てみたって、松陽は言った。それは君のことかって聞いてきた。それで、そのあと、ずいぶんとかわいい鬼がいたものですね、って言って、俺の頭をなでた」
だれにも話したくなかった思い出だ。
大切で、奇跡のように大切で、大切すぎて、だれにも話したくなかった。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio