二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ゆらのと

INDEX|122ページ/373ページ|

次のページ前のページ
 

「俺はその手を振り払って、まえに死体から取った刀を抜いて見せた。そしたらさァ、松陽は、そんな剣もういりませんよ、って言った。それから、自分の腰に差していた刀を鞘ごと抜いて、俺にくれたんだ。それで、そのあと、俺に言った。その剣の本当の使い方を知りたけりゃ、ついてくるといい、ってな」
あのとき、松陽は背中を向けていた。
しかし、ついてくるといい、と告げたのだ。
あの背中は拒絶するものではなかった。
ついてくることをゆるす背中だった。
「俺はついていくことにした。そしたら、松陽は俺を背負った」
あんなことは、生まれて初めてだった。
「俺を背負って、家につれて帰ったんだ」
その背中は、温かかった。
思い出す。
その温もりを。
ダメだ。
感情が高ぶる。
心がぐらぐらと激しく揺れ動く。
ダメだ、ダメだ。
そう思うのに、高ぶった感情を静めることも、激しく揺れる心を押さえつけることもできない。
想いが駆けあがって、頭がひどく熱くなる。
鼻の付け根が痛んだ。
もう抑えきれない。
こぼれ落ちる。
涙が頬をつたうのを感じる。
みっともねェ。
そう思ったが、どうしても止めることができない。
ふと、頬に触れている桂の手に力がこめられた。
なにかが近づいてくるのを感じて、眼を開ける。
至近距離に、桂の顔があった。
寄せられてくる。
そのやわらかな唇が頬に押しあてられた。
驚く。
少し経ってから、それは離れていった。
その顔をじっと見る。
すると、桂はまた顔を寄せてきた。
空気が密になる。
その距離さえ無くなる。
やわらかさと温もりを感じる。
今度は、頬ではなく、唇に。
くちづける。
これまで何度もしてきたことだ。
しかし、桂のほうからしてきたのは初めてだった。
胸になにかがこみあげてきた。
唇が離れる。
けれど。
その身体をつかまえる。
つかまえて、押し倒す。
「やっぱり変だ」
いつのまにか言葉が口から飛び出していた。
「松陽も、おまえも」
驚いた表情をしている顔を見おろして、言う。
「俺を産んだ女でさえ、俺のこと、生まれてこなけりゃ良かったって言ったのに」
母親はまちがいなく、この国の者だった。
だが、父親は、そうではない。
自分の中には、天人の血が流れている。
そう噂されていて、それが事実だと教えたのは母だった。
「それで捨てられた。それなのに、おまえも、松陽も、なんで、なんで自分のほうから手ェ伸ばしてくるんだよ」
母もつらかったのだろう。
そう思う。
しかし、そう思えるようになったのは、捨てられてからかなり経ってからのことだ。
そのすべてを否定して、過去の記憶を封じてしまわなければ、自分がつらかった。
今でも、あまり思い出したくないことだ。
「なぜ、か」
桂が口を開いた。
「それは、あの頃のおまえが、ずいぶんと可愛らしかったからに決まってるだろう」
そう答え、表情をゆるめた。
頬に笑みが浮かんだ。
その優しい表情に、見入る。
「俺も知りてェことがある」
心が求めていることを、そのまま口にする。
「おまえは、俺のこと、どう思ってるんだ」
聞きたい、と思う。
「まだ友情なのか、それとも、俺と同じなのか、どっちだ」
聞かなくても、本当はわかっている。
桂の気持ちの変化は感じ取っていた。
けれど、その唇から、言葉として、聞きたい。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio