ゆらのと
そういえば、新八と神楽はここにいるのに、万事屋の主である銀時はいない。
あの脅迫状の件があるからだろう。
すぐにそう理解したが、しかし、避けられているような気がして、気分が少し沈んだ。
バカバカしい。
そう思う、のだけれども。
「そうアル! エリザベスは今さらだからって、帰るの、ためラップしてたアル」
「神楽ちゃん、ためラップじゃなくて、ためらってた、だよ」
「でも、銀ちゃんが、エリザベスをいっぱい説得したアル。ヅラの小さい頃からの変なシュミの話とかして」
「ちょっと待て、俺の変な趣味とはなんだ!?」
「ぜんぜん寝つかない野良猫をエサをちらつかせてさわろうとするって、銀ちゃん、言ってた」
「神楽ちゃん、寝つかない、じゃなくて、なつかない、だよ」
「いつも片想いで終わるクセに、それでも、ショーこりもなく、挑戦するんだって。それで、また、うまくいかなくて、落ちこむんだって。かわいそうだと思わねェかって、エリザベスに言ってたアル」
あわれまれていたらしい。
反論したいところではあるが、反論できるような材料が見つからなかった。
その事実に桂は落ちこんだ。
一方、神楽は話を続ける。
「帰ってやれよって。おめーは気まずいかもしれねーが、おめーが帰ったら、絶対ェ、ヅラはスゲー喜ぶからって、銀ちゃん、言ってた」
沈んだ気分で聞きながら、桂の脳裏に、その神楽の話の内容の光景が、想像にしかすぎないが、浮かんできた。
帰ってやれよ。
そう告げる銀時の姿が、頭に浮かんだ。
その声までも、想像できた。
ぶっきらぼうで、しかし、それは表面上のことで、芯の部分の温かさも伝わってくるような声だっただろう。
耳に、よみがえる。
その声が。
名を呼ぶ声が。
そして、その想いを告げる声が。
よみがえってきた。
首筋がかすかに震える。
思い出してはいけない。
そう思う。
思い出せば、心が千々に乱れる。
頭はなにも考えられなくなって、身動きもできなくなほど、強く激しい感情が押し寄せてくるから。
今、そんなふうになるのは、まずい。
それに。
もう会わないと決めたのだ。
二度と、会わない。
そう決めた。
だから、断ち切らなければならない。
銀時もそう思っているからこそ、ここに来なかったのだろう。



