ゆらのと
「……そうか、わかった」
平静を装い、言う。
「ああ、そうだ、ここで立ち話を続けるのは申し訳ないから、家にあがってくれ。温かい茶と菓子を出そう」
「あ、いえ、桂さん、それはありがたいんですが」
家のほうに歩きだそうとしたのを、新八が止めた。
「このあと、僕の家で宇宙から無事に帰ってきましたおつかれさまの会をやることになっていて、銀さんと姉上が待っているから、もうそろそろ帰らないといけないんです」
「そうか……」
「ヅラも、おつかれさま会に来るアルか?」
無邪気に神楽が誘った。
しかし。
「いや、いい」
すぐに断った。
さらに。
「急に人数が増えても困るだろうからな」
そう言い訳を付け足した。
ただの言い訳だ。
誘ってくれたその気持ちは嬉しいが、銀時と会うわけにはいかない。
断った本当の理由はそれだ。
二度と会わない。
自分の胸に言い聞かせる。
「じゃあ、もう帰るんだな」
「はい」
「今回のことは、感謝している」
たとえ仕事として依頼したことであっても、こうしてエリザベスが帰ってきて嬉しいし、そういう結果をもたらしてくれたことに感謝している。
礼はちゃんと言っておかなければならないと思った。
新八と神楽を真っ直ぐに見る。
「偶然ということもあっただろうが、エリザベスを連れて帰ってきてくれて、ありがとう」
想いをこめて、言った。
新八と神楽は明るく笑った。
その笑顔に、こちらの心まで明るくなる。
だが、これで終わりではない。
これでこの件を終わりにして、ふたりを帰らせてはいけない。
この件に大きく関わった人物のことを置き去りにはしておけない。
エリザベスが帰ってくる理由となったようだから。
あまり触れたくはないが、さすがに、触れないわけにはいかない。
「銀時に」
その名を口に出す。
「俺が礼を言っていたと伝えてくれないか。エリザベスを説得してくれたようで、深く、感謝していると伝えてくれ」
胸の中がざわめく。
それを表に出さないようにして、続ける。
「頼む」
すると。
「わかりました、とお引き受けしたいところですが」
新八から意外な言葉が返ってきた。
「それなら、銀さんと会ったときに直接言ってください」
「え」
会ったときに直接って、なんだ。
そう戸惑う。
しかし、新八はその戸惑いが気にならないらしく、明るく言う。
「銀さんからの伝言です。明日の昼過ぎに、このまえに会ったところで待っている、そうです」



