ゆらのと
「そりゃ、違うだろ」
銀時が口を開いた。
「俺に会わねェのや、別れるのは、てめーのためじゃねェだろ。俺と別れなくても、てめーには特に問題ねーからな。脅されてんのは俺のほうだけだからな。結局、てめーは、俺のために、決めたんだろ」
ゆっくり、淡々と話す。
「だが、俺の気持ちはこのまえに言ったとおりだ。あんときはテメーに突っぱねられたが、それでも、今、ここに連れこんでることからわかると思うが、あきらめちゃいねェ。俺のため、ってのが基準なら、肝心の俺がこれなら、てめーが揺れて当然だろ」
「……」
「てゆーかさァ、意志が弱いんじゃなくて、それ以上のもんがあったってことじゃねーのか。つまり、それって、どーゆーことなのか、はっきり言ってくれねーか」
銀時は手を顔のほうに近づけてきた。
その指が触れる。
「この口から」
唇を軽く押した。
そして、銀時は返事を待つように黙りこむ。
考える。
いや、考えなくても、自分の気持ちはもうわかっている。
会わなくなってから、思い知らされた。
その存在の大きさを。
そして、想いを断ち切ることの難しさを。
嫌というほど、思い知らされた。
ただ、それを言っていいのかどうか、迷う。
言ってしまえば、後もどりができなくなる気がした。
たとえ、それを銀時が望んでいるにしても、本当にそれが銀時にとっていいことなのかどうか、わからない。
「……まァ、いいけど」
答えずにいると、銀時が沈黙を破った。
さらに、身体を近づけてくる。
「いつか、絶対ェ、言わせてやるから、今は、いーや」
銀時は軽く笑って、言った。
無理強いはしたくないから、退いた。
そんな気がした。
気遣ってくれている。
その想いを感じ取り、心が揺れ動く。
「銀時」
いつのまにか、口が動いていた。
「今だけ、今だけだが、俺は、おまえのものだ」
前置きをつけるのが精一杯で、あとは、感情の高ぶりのままに、言う。
「身も、心も、全部、おまえのものだ」
銀時の望むもののすべて、自分の与えられるもののすべてを、与えたいと思った。
それが全部なら、全部だ。
銀時が眼を見張った。
驚いているのが、わかる。
だが、次の瞬間、銀時は眼をそらした。
その表情が、ふっとゆるむ。
苦笑いしているような、泣き出す一瞬まえのような表情になった。
しかし、それも少しの間のことで、平静と変わらない顔をこちらに向ける。
「……その、今だけ、ってのが、いらねェ」
文句を言いながら、顔を近づけてくる。
まぶたを閉じるまえに、銀時の口角が少しあがっているのを見た。



