ゆらのと
彼らの姿が完全に見えなくなってから、銀時は刀を鞘におさめた。
そのとき。
「ブェックションッ!」
派手なくしゃみがあたりに響き渡った。
坂本が庫裏の中に入ってくる。
「まっこと寒いの〜」
鼻水が出るらしく、鼻をすすりあげている。
銀時は今まで坂本の存在をすっかり忘れてた。
「はよう温かい寝床へ行かんといかん。行くぜよ」
そう坂本はほがらかに言って、右の親指を立てて背後にある出入口をさす。
銀時は返事せず、しかし、うながされるままに出入口のほうへと歩きだした。
それを見て、坂本は踵を返した。
銀時に背を向けて先に進む。
「……あの五人、もうもどってこんじゃろーな〜。おんしの殺気、しょうまっことすごかったからの〜」
出入口の近くで、坂本が言った。
銀時は黙っていた。
先に、坂本は外に出る。
「ヤツらはそれだけのことしようとしちょったんじゃ、しょうがない」
無言のまま、銀時も外に出た。
坂本はさらに続ける。
「桂はおんしの掌中の珠やき」
「そんなんじゃねーよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てる。
まだあの五人への怒りで気分が高ぶっていて、語気が荒くなった。
坂本は悪くないのに。
「てゆーか、アイツが手のひらの中におさまってるわけねェだろ」
そう言いながら、手のひらの中におさまっていてくれたらどんなにいいかと思った。
桂は護られることを望まない。
危険な場所には、他の者を行かせるぐらいなら自分が行くと主張する。
それは剣の腕前にそうとう自信があるからだろう。しかも、実際、桂は強い。
だが、絶対に大丈夫ということはないのだ。
本人の誇りを傷つけたくないから言わないが、銀時は心配している。
桂を護りたい。
この手の中におさめることができたら、どんなにいいだろうか。
「まっことその通りじゃ〜」
アッハッハッハッハーと坂本は声高らかに笑う。
銀時は坂本の隣に並んだ。
ふたりで方丈へ行き、中に入ると、玄関近くの部屋を割り当てられている坂本と別れた。
銀時は廊下を進む。
その廊下に面している部屋のうち、一番奥が自分と桂の部屋だ。
廊下は静かだった。
通り過ぎた横にある部屋は暗く、中の者たちは寝ているようだった。
しかし、一番奥の部屋の障子だけは、暗い中、ぼおっと明るい。
桂はまだ起きているらしい。