ゆらのと
銀時は障子を音をたてないように開ける。
部屋の中で正座していた桂が顔を障子のほうに向けていたので、眼が合った。
他の者たちを起こさないように足音を忍ばせていたのだが、桂はだれかがこの部屋に近づいてきていることに気づいていたようだ。
銀時は部屋の中に入り、障子を閉めた。
そして、畳を歩き、桂の横に無造作に腰を下ろし、あぐらをかく。
「おかえり」
ひそやかな声で桂は言った。
いつもは頭のうしろで結われている長い黒髪は下ろされていて、着ているものは寝るとき用のきものだ。
「……ああ」
「予定より早かったな。うまくいったのか?」
「ああ」
「それは良かった」
朗報に桂は微笑んだ。
顔の造作が整っているので、そこに笑みが浮かぶと、蕾がふわりと花びらを開いたような印象になる。
もっとも、桂は硬い表情ばかりで、こんなふうに微笑むことはあまりないのだが。
もしここにあの五人がいたらどう感じただろうか。
ふとそう思い、そして、嫌なことを思い出したと思った。
「……銀時?」
名を呼ばれた。
うつむいていた顔をあげてそちらのほうを見ると、桂が小首をかしげていた。
部屋に入ってきたときから言葉少なかった銀時が不機嫌な様子で黙りこんだことを不審に思ったのだろう。
銀時はあの五人の名をあげる。
「さっき、その五人ともめた。それでアイツらここから去っていって、もうもどらねーよ」
そう素っ気なく告げた。
桂は一瞬、切れ長の眼を見開いた。
けれど、すぐに平然とした表情になる。
「そうか」
短く言い、眼をそらした。
しばらく、お互い、なにも言わなかった。
「なァ、銀時」
桂が沈黙を破った。
「ここにいるのは長くなってきたし、どこか別のところに行こうか」
「そんなの俺たちふたりで決めることじゃねーだろ」
「そういう意味じゃない。俺たちふたりで、ここを去って、違うところに行こうかと言っているんだ」
つまり、この軍の潜伏先を変えるということではなく、自分たちふたりがこの軍から違う軍へと移籍するということ。