ゆらのと
お互い、無言で冷たく相手を見る。
しばらくして。
「……それでは、中にご案内しましょう」
天人は感情の一切にじまない声で告げ、踵を返した。
背中を向けたのだが、その長身からは隙が感じられない。
桂は手かせをはめられた腕を左右から引っ張られ、先を行く天人のあとを付き従うように歩く。
一歩、一歩、タラップを進むにつれ、船はまだ江戸にあるのに、江戸から離れていくように感じた。
これまで自分のいた日常から、もうもどれないほど遠く離れてしまうような気がした。
そして、この先、待ち受けているのは。
はるか遠い星へとつれていかれて、この宇宙海賊たちが大喜びするような高値で売り飛ばされる。
そして、無茶苦茶に陵辱され、その挙げ句に死ぬことになるかもしれない。
これから自分の身に起こるかもしれないことを思うと、どうしても不安がわいてきて、消し去ることができず、大きくふくれあがった不安が心を押しつぶそうとする。
だが。
今なら。
このタラップの上なら。
まだ船内に入っていない今なら。
ここで暴れたら。
手かせをはめられていても、まわりにいる者たちを振り切って、逃げられる自信はある。
今なら、まだ、引き返せる。
しかし。
そんなことしたって、なんの解決にもならないじゃないか。
そう苦々しく思った。
ここで自分が逃げたら、この宇宙海賊はまた万事屋を狙うだろう。
宇宙規模の犯罪組織が万事屋を標的にする。
その状況を変えたくて、万事屋から脅威を取り除きたくて、そのために、自分はすべてを覚悟した上でここに来たのだ。
江戸から、それどころか、地球から離れる。
もう帰ってこられないかもしれない。
ふいに、昔の記憶が、いろいろ、頭によみがえってきた。
まだ幼かった頃のこと。
春の芽が夏の青葉になるように成長した頃のこと。
尊敬する師を亡くした頃のこと。
戦に出た頃のこと。
そして、戦が終結してから今までのこと。
思い出した。
その記憶の多くに、銀時がいた。
よく一緒にいたから、あたりまえだろう。
楽しいとき、苦しいとき、そんな特別なことがなにもないときも、よく一緒にいた。
ともにあることが自然のことのように感じていた。
だが、ずっと自分は友情だと思っていた。
銀時が自分に対して、ずっと恋情を抱いていたなんて、知らなかった。
大切に想われていた。
それは、自分も。
同じ。
大切に想っている。
だからこそ、その幸せを願っている。
銀時。
あいしている。
そう胸の中で、告げた。



