ゆらのと
この男が攘夷軍にいた頃は、まだ、攘夷志士側の状況は良かった。
だが、それから、どんどん状況は悪くなり、戦に負け続けるようになり、仲間を多く失い、大敗して、終結した。
あの地獄を、この男は知らない。
しかし。
自分も、この男が落ち続けていると表現した過去を、知らない。
その過去が、自分の経験した地獄よりもひどいものであったのかどうか、わからない。
だが、痛みは、他人と比較してどうなるというものでもない。
たとえば、右腕を負傷している者に、両腕を負傷している者を会わせて、傷が少ないからマシで、だから痛みがなくなるだろう、というのは無理な話だ。
実際に痛みを感じて苦しんでいる者に、どちらの傷のほうがひどいか比べるのは、無意味だろう。
桂は久松に告げる。
「報酬を受け取ったら、できるだけ早く、宇宙海賊から離れろ。ヤツらと縁を切れ」
その仲間にも伝わることを願いながら、言う。
「大金が手に入るんだろう。それを元手にして、やりなおせ」
「そんなこと、できるわけが」
「できるさ。無理だと思うなら、かぶき町に行けばいい。そして、やりなおし方を教えてもらえばいい」
ただし、かなり荒い扱いをされるかもしれないが。
そう思い、桂は少し笑う。
「俺も教えられた口だ」
この男ほど自分を貶めていたわけではないが、自分の手は汚れていて、もう元にはもどれないと思っていた。
もう、そのまま突っ走って、生き急ぐように生きるしかないと思っていた。
しかし、汚れていても、生きなおすことができることを知った。
汚れた過去を抱えたままでも、明るく笑って暮らすことができることを知った。
銀時と再会し、そして、かぶき町で暮らすようになって。
「……アンタ、俺をゆるすのか」
信じられないといった様子で、久松が聞いてきた。
「まさか」
即座に、桂は否定した。
その上で、続ける。
「俺はおまえたちのしたことをゆるすつもりはない。だが、今後、俺や銀時たちと関わらずに生きなおすなら、忘れることにする」
実際に忘れることはできないだろうけれど。
久松は黙って立っていた。
しばらくして、その口が開かれる。
「本気でアンタがほしくなった。身体がってことじゃなくて」
その眼が伏せられる。
「どおりで、あの銀時が惚れこむわけだ」
ひとりごとのように言った。



